非上場株式・少数株式の株式価値算定裁判例分析1(MS事件)!

非上場株式・少数株式の株式価値算定裁判例分析1(MS事件)

資本金の額1億2000万円
発行済株式総数240万株
株主資本70億6336万6247円
総資産119億9174万1553円
売上高は、直近3期では、59億3688万2956円(平成16年11月期)
58億0609万4512円(平成17年11月期)
60億3376万8033円(平成18年11月期)
日本国内では、東京及び大阪の2か所に支店を設置し、その他にも、札幌、名古屋及び福岡など5か所に営業所を設けている。また、工場も2か所にある。
海外においても、アメリカ合衆国(1社)、スイス連邦(1社)及びタイ王国(2社)の3か国に合計4の子会社を持ち、北米、欧州及びアジア地域をはじめとして、全世界において事業活動を展開している。

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非上場株式・少数株式の株式価値算定裁判例1(MS事件)における対象株式の概要

少数株主の保有株式数:38万1220株(15.88%、議決権ベース26.17%)

【判旨概要】本件会社の株式価格の評価は、DCF方式またはゴードン・モデル方式によって算定することが一応相当であるが、本件は、会社法の株式売買価格を決定するものであるから、売り手、買い手双方対等の立場で評価すべきであり、売り手の立場から最も合理的な評価方法である配当還元方式と、買い手の立場からのDCF方式を1対1で加重平均する方式をとるべきこととなる。

裁判所が譲渡制限株式の売買価格を決定するに当たっては、「譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状況その他一切の事情」を考慮すべきものとされている(会社法第144条第3項)。したがって、株式評価の材料と認められる限り、対象会社の収益状況、1株当りの収益又は配当額、将来の事業の見通し、配当政策・配当能力、業界の状況など、対象会社内外の一切の事情を斟酌することを要することとなる、とされた。

株式価値算定裁判例1(MS事件)における売主側株価と買主側株価との加重平均割合

1:1
※「双方対等の立場で評価すベき」とされている。

【判旨】株式価格の評価に当たって・・・株式の売買を相対で行う場合には、通常は、いずれか一方の交渉力が他方を上回るのが一般的であるが、本件は、会社法の規定により株式買取価格を決定するものであるから、双方対等の立場で評価すベきものであると解される。
【判旨】売主の立場と買主の立場を総合的に勘案するためには、売主と買主を双方対等の立場にあることを前提として、売主の立場からの相当な評価方式と買主の立場からの評価方式を1対1で評価価格に反映させるのが相当である。そうすると、本件では、DCF方式とゴードン・モデル方式を1:1で折衷する方式をとるべきこととなる。⇒非上場株式・譲渡制限株式・少数株式でお困りの方はこちら!

株式価値算定裁判例1(MS事件)に採用された非上場株式・少数株式の株式価値評価方法

売主側:

結論・・・配当還元法(ゴードンモデル※)
理由・・・経営支配力を有していない
※配当還元法の種類

  1. 実際配当還元法    = 当該企業で実際に行われている配当金額を用いる方法
  2. 標準配当還元法    = 経営者の配当政策により配当額が左右されないよう一般に妥当とされる配当額を用いる方法
  3. ゴードン・モデル方式 = 企業が獲得した利益のうち配当に回されなかった内部留保額は再投資によって将来利益を生み、配当の増加を期待できるものとして評価する方法
    注:近時は、配当還元法としては、上記2.3を合わせて考えることが適切と思われる、とされた。
【判旨】売り手の立場からすれば、株式の売買は株主の投資回収の方法であり、主として経済的利益の補償という観点からその算定方式を考慮すべきであるところ、株式の売買は、売り手がこれまで顕在的に行使していた利益配当請求権と潜在的に有している残余財産配当請求権を換価するという側面があるものの、先に見たとおり、対象会社は清算等を予定しておらず、他方で、対象会社親会社らが経営支配力を有していないのであるから、株主である対象会社親会社が当分の間、残余財産の分配を受けることは困難であることからすれば、売り手の立場から最も合理的な評価方式は、配当還元方式によることとなる。

【判旨】配当還元方式については、継続企業の価値を評価する方法の1つであるが、他方で、同方式が配当の状況及び配当政策の影響を受けやすいこと(すなわち、多額の欠損が生じているために当面において配当できない企業、配当が見込めない成長企業については株主価値の計算が困難であり、また、配当が低位安定しているような企業は過小評価しやすいこと)に配慮すべきものと解されていること、また、同方式のうちゴードン・モデル方式については、計算式において特定の条件が成立することが必要で、かつ、企業は永久に同じ割合で成長するという前提で成り立っているモデルであることが指摘されているところ、本件において、対象会社に上記のような事情があれば、本件における評価において同方式を採用することについては慎重な検討が必要となる。
もっとも、対象会社は、直近の決算期3年度において株主に対して1株当たり17円50銭から20円の割合で配当を実施しており、株主配当額の平均額は約430万円であること、対象会社の直近の決算期3年度の配当性向(配当で支払う金額を当期利益で除したものを百分率で示したもの)は16.4パーセントであり、平成15年度から平成19年度における国内取引所に上場している全銘柄の配当性向に照らしても特に不合理とは考えられないことに照らせば、本件においてゴードン・モデル方式を採用することについて、特段、支障はないものと考えられる。

買主側:

結論・・・収益還元法(DCF法)

・・・・・収益還元法(DCF法)の割引率4.7%~6.0%

理由・・・買主は対象会社自身であり継続企業の動的価値を現す最も理論的な方法であるDCF方式によらざるを得ない。

【判旨】他方で、買い手の立場からは、本件株式の買い手は対象会社自身(もっとも、本件では甲山も買い手となっているが〔第6号事件、第8号事件〕、本件における事実経過等に照らせば、対象会社と同視して差し支えないものと解する。)であり、配当を期待するものではないから、配当還元方式を採用することも相当ではなく、結局、継続企業の動的価値を現す最も理論的な方法であるDCF方式によらざるを得ないものと解される。

ディスカウント

【考慮する】
非流動性ディスカウント(市場価格が存しないことを理由とする減価)

【判旨】一般に、事業の合併・買収取引に際して非公開会社を評価する場合には、当該会社の流動性の欠如を理由とするディスカウント(非流動性ディスカウント)を加味することとされているところ、対象会社は、非上場株式会社であり、株式の譲渡制限が設けられていること、そして、乙野らにおいて、その所有する対象会社の株式につき譲渡を余儀なくされるような事情は、一件記録に照らしてもおよそ認め難い。
以上からすれば、本件においても非流動性ディスカウントを考慮すベきものと解され、この理解に基づいて非流動性ディスカウントを考慮した対象会社算定書の算定過程については、これを肯認することができる。

参考:裁判例

株式売買価格決定申立事件株式売買価格決定申立事件
【事件番号】
広島地方裁判所決定/平成20年(ヒ)第1号、平成20年(ヒ)第2号、平成20年(ヒ)第6号、平成20年(ヒ)第8号【判旨概要】
本件会社の株式価格の評価は、DCF方式またはゴードン・モデル方式によって算定することが一応相当であるが、本件は、会社法の株式売買価格を決定するものであるから、売り手、買い手双方対等の立場で評価すべきであり、売り手の立場から最も合理的な評価方法である配当還元方式と、買い手の立場からのDCF方式を1対1で加重平均する方式をとるべきこととなる。
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