非上場株式・少数株式の株式価値算定裁判例分析3(kisen事件)!

非上場株式・少数株式の株式価値算定裁判例分析3(kisen事件)

kisenは、明治31年9月24日に設立され、旅客運送業、貸船営業等を目的とする株式会社である。
その定款には、発行するすべての株式の譲渡による取得について、取締役会の承認を要する旨の定めがある。
kisenの従業員数は、平成24年1月22日当時、38名。
kisenは、平成24年1月22日当時、運航客船を11隻(傭船2隻を含む。)所有し、浅草から日の出、日の出から青海、日の出から有明、東京湾内周遊などを航路としていた。
kisenの売上高は    10億2592万9000円
税引き後純利益は   5823万6000円
純資産の額は  13億1061万8000円
kisenの株式に対する配当金額は総額921万7500円(一株当たり7.5円)であり、今後も一株当たり7.5円の配当を維持する予定である。
申立人会社(株主)は、kisenの発行する普通株式15万株の株式の株主だった。申立人甲野(株主)は、kisenの発行する普通株式15万株の株式を有する株主だった。
相手方法人(指定買取人)は、産業用製品の市場拡大に貢献することを目的とする一般社団法人である。

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株式価値算定裁判例3(kisen事件)における株式保有状況

発行済み株式総数
:123万株(自己株式数は1000株)
議決権を有する株主
:11名
少数株主の保有株式に係る議決権比率
:24.4%
対象会社の代表取締役及び親族の保有株式に係る議決権比率
:52.9%

株式価値算定裁判例3(kisen事件)の判旨概要

【判旨概要】DCF法、純資産法、配当還元法による株式価格を加重平均して、1株当たり693円と決定するのが相当である。

株式価値算定裁判例3(kisen事件)における非上場株式・少数株式の株式価値評価の方針

【判旨】各評価方式は、株式価値に影響を及ぼしうる事象のうち、会社の収益や純資産といった側面にそれぞれ重点を置くものであり、一つの評価方式の採用は、他の評価方式が重点を置く株式価値に影響を及ぼしうる事情を捨象する面があることから、どの評価方式が対象会社の株式価値の評価方式として適切かは、会社の規模・業種・業態、現在及び将来の収益性、事業継続の有無、配当実績や配当政策、会社支配権の移動の有無、評価の対象となる株式の発行済株式総数に占める割合等、株式評価の基礎となる事情を踏まえて決するのが相当である。

株式価値算定裁判例3(kisen事件)における売主側株価と買主側株価との加重平均割合

1:1
※「売主と買主の双方が対等の立場にあることを前提とすべき」とされている。

【判旨】本件において、具体的にどの株式評価方式を採用するのが適切か、併用する場合のそれぞれの割合をどのように考えるべきかが問題となるところ、本件は、本来であれば売主と買主の双方の合意あるいは協議により定められるはずの株式売買価格の決定が求められているのであるから、特段の考慮事情がない限りは、売主、買主の双方の立場に立って検討するのが相当である。
【判旨】そして、以上の売主の立場と買主の立場のうち、一方の立場にのみ重点を置くことになれば、相手方を不当に利し、あるいは害することにつながりかねないことから、売主と買主の双方が対等の立場にあることを前提とすべきであり、本件では、売主の立場からの相当な評価方式と買主の立場からの評価方式を1対1で反映させ、DCF法0.35、純資産法0.35、配当還元法0.3の割合で加重平均して求めた価格をもって本件株式の価格とするのが相当である。⇒非上場株式・譲渡制限株式・少数株式でお困りの方はこちら!

株式価値算定裁判例3(kisen事件)に採用された非上場株式・少数株式の株式価値評価方法

収益還元法:
【判旨】対象会社は、明治31年に設立された企業であり、第58期から第62期までの事業年度において安定した水準の売上高があり、利益を上げていることが明らかであり、本件全資料によっても、対象会社の事業継続性について疑義が生じるような事実は認められず、対象会社が清算に至るという事態は想定されない。したがって、本件株式の評価にあたっては、継続企業を評価する際に用いられる収益方式を第一次的に採るべきである。
純資産方式:
【判旨】対象会社は中小規模の企業であり、一般的に大企業と比べると組織化率が低く属人性が高い、資金調達力が弱い、外部環境の変化に相対的に弱い等の事業リスクがあるというのであり、対象会社の主要事業である水上バス事業は、乗客数の低下といった外部環境の影響や船舶の建造費といった事業継続の際に必然的に伴う費用の支出の影響により収益性が減退するおそれがあることもうかがえるのであるから、そうした企業規模や事業リスクのある対象会社の株価の算定方式として、一定の収益や配当が永続することを前提とする収益方式のみによることは相当ではない。
そこで、本件株式の評価にあたっては、収益方式とともに会社の静的価値に着目した評価方法である純資産方式も考慮すべきである。もっとも、上記のとおり、対象会社の事業継続性について疑義が生じるような事実は認められないのであるから、継続企業を前提とする再調達時価方式を採るべきである。

売主側:

結論・・・配当還元法:DCF法:純資産法=6:2:2
理由・・・支配株主と一般株主の中間的な立場に位置する株主と認められる。
したがって、配当還元法とともに、DCF法及び純資産法を併用すべき。

【判旨】他方、本件株式の売主である申立人らの保有する株式の議決権比率は合計24.4%であり、対象会社の支配株主とは認められない。もっとも、本件鑑定の結果によれば、申立人らは、対象会社の単なる一般株主ともいえず、支配株主と一般株主の中間的な立場に位置する株主と認められる。

買主側:

結論・・・収益還元法(DCF法)と時価純資産法=5:5
・・・・・収益還元法(DCF法)の割引率:2.57%
理由・・・一定の収益や配当が永続することを前提とする収益方式のみによることは相当ではない。
・・・・・本件株式の評価にあたっては、収益方式とともに会社の静的価値に着目した評価方法である純資産方式も考慮すべきである。

【判旨】本件株式の買主である相手方法人は、対象会社が買取人として指定した法人であるし、その経営陣かつ支配株主から資料の提供を受けて本件事件を遂行していると認められるのであるから、対象会社の支配株主と一体の立場に立つ買主であると評価すべきであり、その立場からする本件株式の評価方式は、支配株主の保有する株式についての評価方式を適用するのが相当である。
そして、一般に、支配株主の保有する株式の価値は会社全体の価値を基礎に評価するのが相当であり、本件株式の価格は、継続企業としての価値を求める収益方式の一つであるDCF法と、企業の静的価値を求める純資産法を併用し、各方式によって算出された価格を0.5対0.5の割合で加重平均して求めた価格とするのが相当である。

ディスカウント

【考慮する】
非流動性ディスカウント(非上場株式は流動性を欠くことを考慮した割引)30%
【考慮しない】
小規模リスクプレミアムは、ベータ値により調整したエクイティーリスクプレミアムに加えて中小企業のリスクを考慮しようとするものであることからすると、著しく合理性を欠くものといわざるを得ない。