加納典明事件(デジタルコンテンツ配信会社株式価格を収益還元方式により定めた判例)を徹底解説!!

平成20年1月22日東京地方裁判所決定/平成19年(ヒ)第134号 平成20年4月4日東京高等裁判所決定/平成20年(ラ)第301号

本件は、申立人が、株式譲渡制限会社(本件会社)に対し、申立人が有する本件会社の株式について譲渡承認及び譲渡承認をしない場合には本件会社又は指定買取人による買取りを請求したところ、本件会社が譲渡承認をしない旨及び相手方を指定買取人に指定する旨通知し、申立人と相手方との協議が調わなかったため、申立人が、会社法144条7項が準用する同条2項に基づいて、相手方に対し、当該株式の株式売買価格の決定を申し立てた事案である。

経営権の移動を伴う場合に用いられる評価方式(純資産方式・収益方式)を採用

本件会社においては、申立人が2400株、相手方が3600株の株式を有していた。

そうすると、相手方が過半数の株式を有していたから、経営権を有していたといえるけれども、他方で、申立人は発行済株式の総数の40%の株式を有し、株主総会の特別決議を拒否できるから、本件会社の経営に一定程度の影響を及ぼすことができる株主であったといえる。

加えて、本件では、申立人から相手方に本件株式が移動することによって、相手方は本件会社を完全に支配することができることになる。そうであれば、本件では、経営権の移動に準じて取り扱い、経営権の移動を伴う場合に用いられる評価方式である純資産方式、収益方式を検討すべきであると解される。

また、本件会社では、配当を実施したことがなく、現時点で将来配当を行う予定はないのであるから、純資産方式、収益方式に加えて配当還元方式を採用する基礎に欠けるというべきである。

純資産方式の検討

本件会社は、現時点において継続しており、近い将来清算することが予定されているわけではないから、処分価格による純資産方式とする必要はない。また、本件会社は、含み益を有する資産はなく、その他帳簿価格を修正する事情は見当たらないから(乙6)、純資産方式による評価は、平成19年3月期の帳簿価格と同じと解される。そうすると、純資産方式による1株当たりの価格は7378円となる。

収益還元方式の検討

本件会社は、平成15年12月期の売上が約8266万円であったところ、平成19年3月期の売上は約1億1618万円となり、その間の平均の売上は約9943万円であるから、売上としては上昇方向に推移しているといえる。

そうすると、収益還元方式に用いる予想税引後利益については、平成18年3月期及び平成19年3月期の経常利益を基礎として考えるべきであり、これらの平均値に実効税率(42%)を乗じた額を差し引いて予想税引後利益とすべきである。そして、資本還元率は一般に用いられる10%を採用して計算すると、収益還元法による1株当たりの価格は1万2929円となる。

純資産方式と収益還元方式の比較検討

本件会社においては、清算は予定されていないこと、売上は順調に推移しており、今後も一定程度の利益が見込まれること、資産に含み益がある不動産等は存在しないことなどを考慮すると、インカムアプローチである収益還元方式を採用するのが相当である。

これに対し、創業してさほど年月の経過していない本件会社においては、純資産方式を採用すると株式価値を過小評価するおそれがあるから、純資産方式を併用することを含めて採用するのは相当ではない。

結論

したがって、本件株式の1株当たりの価格は、収益還元方式によって1万2929円と定めるのが相当である。

抗告審

この原審の判断に対して、原告被告とも抗告を行ったものの、抗告審では、原審の判断を概ね尊重し、抗告棄却の決定を行っており、原審の判断で確定した。