少数株主・非上場株主の会計帳簿等閲覧謄写請求権の行使の方法・詳細・流れについて!
少数株主・非上場株主の会計帳簿等閲覧謄写請求権の行使の方法・詳細・流れ
会社法は、会社に対し、会計帳簿の作成と、その10年間の保存を義務付けています(会計帳簿作成保存義務・会社法432条)。
少数株主・非上場株主は、会社法上、少数株主権として、会計帳簿等閲覧謄写請求権(帳簿閲覧請求権・帳簿謄写請求権)を有しています(会社法433条1項)。
少数株主・非上場株主は、総株主の議決権の100分の3以上、または総株式数の100分の3以上の株式を有する株主が、会計帳簿等閲覧謄写請求権(帳簿閲覧請求権・帳簿謄写請求権)を行使できます(会社法433条1項柱書)。
少数株主・非上場株主は、会社法上、取締役の専横を防止するために、株主総会の招集請求権(会社法297条)、取締役の解任請求権(会社法854条)、取締役の違法行為の差止め請求権(会社法360条)、株主代表訴訟提起権(会社法847条3項)等を有しています。
しかし、これらの少数株主・非上場株主の少数株主権を有効かつ適切に行使するためには、少数株主・非上場株主が、事前に、会社の業務状況や財務状況を正確に把握していることが前提となりますので、少数株主・非上場株主の会計帳簿等の閲覧謄写請求権(帳簿閲覧請求権・帳簿謄写請求権)が規定されているのです。
そして、少数株主・非上場株主が会計帳簿等閲覧謄写請求(帳簿閲覧請求・帳簿謄写請求)をすることができる「会計帳簿又はこれに関する資料」(会社法433条1項)としては、①「会計帳簿」、すなわち、代表的には、総勘定元帳、経理元帳、有価証券台帳、貸付金元帳、借入金元帳、売上元帳、当座預金元帳、手形元帳、仕訳帳等と、②「会計帳簿に関する資料」としては、会計帳簿を作成する材料となった書類等(日記帳、領収書、契約書、信書等)とされており、かなり広範囲の資料が含まれまれ、下記の会計帳簿等を閲覧謄写請求することが一般的になっているものと思われます。
(1)直近3期分の決算書
(2)直近3期分の法人税、地方税、消費税確定申告書
(3)直近3期分の勘定科目内訳書
(4)直近3期分の固定資産台帳
(5)直近3期分の総勘定元帳(会計システムからデータ化されたもの)
(6)直近決算書以降の試算表
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正当な理由のない会計帳簿等閲覧謄写請求権は拒否できる
また、会社法上、会計帳簿等閲覧謄写請求は、「当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。」(会社法433条1項柱書)とされています。少数株主・非上場株主が会計帳簿の閲覧謄写を請求するには、請求の理由を明らかにする必要があるのです(会社法433条1項柱書)。
すなわち、理由がない場合は、株主は会計帳簿等閲覧謄写請求を行うことができないのです。また、会計帳簿等閲覧謄写請求の範囲は、この理由に関連する範囲に限定されるのです。
たしかに、会社に対して、理由なく、会計帳簿等閲覧謄謄写をする必要はありませんので、その通りかと思われますが、あまりここを強調すると、株主がいくら理由を説明したとしても、会社が難癖をつけて、「それは理由がない」「理由と関係がない」「理由として不十分だ」などと言って会計帳簿等閲覧謄写請求を拒否できることになりますので、この要件はあまり厳しく取り扱われません。
また、そもそも、株主が会社の企業価値算定を行う必要があるような場合は、会計帳簿等については、およそ全て閲覧謄写する必要があるのですから、企業価値算定を行う必要があるような場合は、会社は会計帳簿等閲覧謄写請求をまったく拒否できないということとなります。
不当な理由に基づく会計帳簿等閲覧謄写請求権も開示を拒否できる
また、会社は、少数株主・非上場株主から会計帳簿等の閲覧謄写請求(帳簿閲覧請求権・帳簿謄写請求権)がなされた場合でも、株主の権利濫用を防止するため、一定の場合には、これを拒絶することができます(会社法433条2項各号)。
例えば、少数株主・非上場株主が「権利保護または権利行使に関する調査以外の目的」「会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的」「請求者が実質的に会社の業務と競争関係になる事業を営み、又はこれに従事するものであるとき」「請求者が会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧または謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき」「請求者が、過去2年以内に、会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧または謄写によって知り得た事実を、利益をもって第三者に通報したことがある者であるとき」などです(会社法433条2項)。
ここまで広範な会計帳簿等の閲覧謄写請求(帳簿閲覧請求権・帳簿謄写請求権)の拒否事由が存在するのであれば、正直なところ、ほとんどの事例はこれに紐づけることができると思われ、会計帳簿等の閲覧謄写請求(帳簿閲覧請求権・帳簿謄写請求権)はいつでも拒否できるような状況です。
業務妨害目的の拒絶事由と競業目的の拒絶事由が重要
実際の事例としては、①「権利保護または権利行使に関する調査以外の目的」(会社法433条2項1号)及び②「請求者が実質的に会社の業務と競争関係になる事業を営み、又はこれに従事するものであるとき」(会社法433条2項3号)の事例が多くなっています。
業務妨害目的の拒絶事由について
①「権利保護または権利行使に関する調査以外の目的」(会社法433条2項1号)とは、株主が株主権を行使するために会計帳簿等閲覧謄写請求を行っているのであればよいのですが、そうでない場合が多く存在します。
例えば、株主が債権者を兼ねている場合、その株主は株主としてではなく、債権者として、会社の会計帳簿等閲覧謄写請求をしているのかもしれません。会社の会計帳簿等を閲覧謄写することにより、仮差押えに必要な要件を確認し、証拠を確保することができますし、強制執行すべき財産がどこにあるのかも確認することができます。
また、株主が元従業員であるような場合、その株主は株主としてではなく、元従業員として、未払残業代の労働審判や労働裁判を提起するための証拠を入手するために、会計帳簿等の閲覧謄写をしようとしている可能性が高いということとなります。また、不当解雇だと主張し、そのための証拠を集めようとしているのかもしれません。
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競業目的の拒絶事由について
また、その元従業員が転職活動をしているような場合は、会社の会計帳簿等を手土産に、競合他社に転職しようとしているかもしれません。会社に対する業務妨害目的で、会計帳簿等を閲覧謄写請求をしているということなのです。
②「請求者が実質的に会社の業務と競争関係になる事業を営み、又はこれに従事するものであるとき」(会社法433条2項3号)としては、この転職活動をしている元従業員が当たります。すなわち、その元従業員が転職活動をしているような場合は、会社の会計帳簿等を手土産に、競合他社に転職しようとしているかもしれません。
そうでなくとも、会社に対して悪意を有している元従業員は、会社の会計帳簿等をどのように使用するかわかりませんし、悪用することは明らかですし、悪用する方法は非常に多岐にわたり事前に予想することはできませんので、到底、会社の会計帳簿等を閲覧謄写させることはできないのです。
少数株主・非上場株主の会計帳簿等閲覧謄写請求権の行使方法・詳細・流れについて!!
ただ、会社が、正当な理由なく、少数株主・非上場株主からの会計帳簿等の閲覧謄写請求権(帳簿閲覧請求権・帳簿謄写請求権)に応じない場合、少数株主・非上場株主は、会社に対して、訴訟を提起し、閲覧謄写請求(帳簿閲覧請求・帳簿謄写請求)に応じるよう求めていくこととなります。
しかし、訴訟による解決では時間がかかるため、少数株主・非上場株主は、会社に閲覧謄写を請求する訴訟を本案訴訟として、会社に対して、会計帳簿等の閲覧謄写請求権(帳簿閲覧請求権・帳簿謄写請求権)に基づく会計帳簿の閲覧謄写を命じる仮処分の申立てを行うことが一般的です。
仮処分手続きですから、手続きは通常訴訟の2倍程度の速度で進みます。専門家の助力なくしては、到底、十分な対応は困難です。
会計帳簿の閲覧謄写仮処分決定が出たとしても仮執行停止・異議申立・保全抗告・審尋手続が残っている
ところで、会計帳簿等の閲覧謄写請求権(帳簿閲覧請求権・帳簿謄写請求権)に基づく会計帳簿の閲覧謄写を命じる仮処分決定が出た場合、仮処分手続きですから、上訴の方法が異なります。
そもそも、仮処分決定に対しては、まずは発令裁判所に対して、保全異議を申し立てることとなります。この際、仮処分執行停止も併せて申し立てることを忘れてはいけません。保全異議の判断が出る前に、仮処分決定が執行されてしまいます。
また、保全異議でも仮処分決定が取り消されなかった場合、上級裁判所に保全抗告することとなります。
なお、会計帳簿の閲覧謄写を命じる仮処分決定については、執行の方法としては、間接強制(金銭の支払を命じるなど一定の不利益を課すことにより義務の履行を強制する方法)しか行われず、またその間接強制命令の発令のためには審尋が必要となるなど、さまざまな段階で防御の機会があり、会計帳簿の閲覧謄写を命じる仮処分決定がでさえすれば、直ちに、会計帳簿が閲覧謄写できるわけではなく、しばらく手続きが必要になる点、留意が必要です。