少数株主が取れる法的手段とは?取り得る法的手段と利益を保護するための権利

株式会社では経営陣や株主の対立をはじめ、企業内部での紛争も少なからず起きています。

なかでもよく紛争に発展するものが、経営陣および支配株主と少数株主の対立問題です。

経営権を巡り企業によっては、少数株主の締め出しを図る一方で、少数株主が経営陣を相手に訴訟を起こすケースもあります。

なお紛争に発展した際には、少数株主が不利な状況に置かれることも少なくありません。しかし近年では少数株主の保護も着目されており、取り得る法的手段も存在します。

現在、経営陣との対立に悩んでいる少数株主の方などは、ぜひ参考にしてください。

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少数株主の概要と現状

少数株主とは、支配株以外の株式を保有する株主のことです。一般的には連結子会社など、親会社以外の株式を保有する株主を指すときに広く使われています。

従来、企業では資本多数決の原則により少数株主の権利はあまり強くなく、多数株主の方が不利益を強要したり、利益を独占したりしても対抗できませんでした。この状況を改善するため、近年では少数株主が多数株主に対抗できるよう、少数株主の権利も強化されています。

一方で実際に機能しているかについて、疑問視されることもあります。実際に以下のような事例も、報告されているようです。

・支配株主と当該上場会社の間において、あらかじめ取締役会の構成・株式の売渡などに関する合意がされていたことが、支配株主との争いを契機とし事後に明らかになった

・「主力事業を支配株主のグループ会社に譲り渡す」ように、支配株主から迫られたと企業が主張した

企業が行った調査などでは上記のような、少数株主に不利益が生じる事例も発生しています。多数株主に対抗するためには、少数株主が取り得る法的な手段を把握しておくことが大切です。

少数株主が取れる法的手段

少数株主であっても、多数株主に対して取り得る法的手段があります。不利益が生じた際、感情的に訴えても問題の解決には至りません。

法律に則り、適切な手段を講じることにより、問題を解決できる可能性があります。

少数株主が多数株主に対して、取り得る法的手段としては、以下のようなものがあります。

会社が適切に運営されているか監視を行う|計算書類閲覧謄写請求権の行使

少数株主が取れる法的手段としては、計算書類閲覧謄写請求権の行使などがあります。

株主には「計算書類閲覧謄写請求権」というものが認められており、企業における計算書類などの閲覧謄写を請求することが可能です(会社法433条)。

計算書類閲覧謄写請求権を行使することで、株式を保有する企業が適切に運営されているか確認できます。

経営陣に対しては、監視されているかのようなプレッシャーを与えられるため、不正の抑止などにも期待できるでしょう。

計算書類閲覧謄写請求権の対象となる計算書類

計算書類閲覧謄写請求権を行使できる書類には、以下のようなものがあります(会社法435条2項、会社計算規則59条1項)。

・貸借対照表

・損益計算書

・株主資本等変動計算書

・個別注記表

該当する書類は事業年度の事業成績、事業年度末における株式会社の財産状態を示す書類などです。

なお閲覧謄写が請求できる計算書類に、連結計算書類などは含まれません。連結計算書類は会社法443条3項により、該当する大企業のみ作成が義務付けられています。

一方の中小企業は、連結決算書類の作成は義務付けられていないため、計算書類閲覧謄写請求権を行使できる対象とはなりません。

ただし親会社の株主もしくは社員の場合、正当な理由と裁判所の許可があれば、連結決算書類などを確認することが可能です。

株主であれば誰でも計算書類閲覧謄写請求が可能

計算書類閲覧謄写権は、株主であれば誰にでも請求が認められています(会社法442条3項)。

株式を保有してさえいれば、保有する株式の割合や保有数・保有期間などの制約はありません。加えて債権者の方も、計算書類閲覧謄写請求権を行使できるとされています。

ただし以下の書類を請求する場合には、計算書類閲覧謄写請求権を行使しようとする企業が定めた費用を支払う必要があります(会社法442条)。

・計算書類等が「書面」で作成されている場合、書面・書面の写しを閲覧謄写請求するとき

・書面の謄本・抄本を閲覧謄写請求するとき

・計算書類が電磁的記録の場合、法務省令で定める方法により表示したものを閲覧謄写請求するとき

企業側は正当な理由がない限り計算書類閲覧謄写請求を拒否できない

株主や債権者が計算書類閲覧謄写請求権を行使する際には、理由なく請求が可能です。

法律でも理由を求めていないため、正当な理由なく計算書類閲覧謄写請求権を行使できます。

一方の企業側は、正当な理由なく請求を拒否できません。会社法では計算書類などの作成・開示に関する措置が義務付けられています。

法律では書類の準備などに関する違反、正当な理由なく閲覧を拒否した場合には、取締役などに対して100万円以下の罰金が科せられます(会社法976条)。

また計算書類作成の不備や計算書類閲覧謄写請求の拒否により、自社に損失を与えることは、取締役としての任務を怠ったとも捉えられる行為です。

このような場合、取締役は賠償責任を負わなければならない可能性があります。

株主総会の決議を変更・取り消したい|株主総会の取り消し・無効の訴え

株主総会の決議に以下のような事由が認められるときは、決議の取り消しや無効を訴えることができます(会社法831条・830条1項)。

・招集・決議の手続きに法令・定款違反がある(取り消しの訴えが可能)

・株主総会の内容や実態に法令・定款違反がある(無効の訴えが可能)

・特別利害関係者の議決権行使により、不公平な決議となった

上記の事由による決議の取り消し、無効の訴えは少数株主でも可能です。また株主以外にも取締役や監査人、清算人なども取り消しや無効の提訴ができます。

ただし取り消しの場合、提訴したからといってすぐに削除されるわけではなく、一時的に補欠として扱われ、取り消しの判決が下った後に取り消しが実行されます。

加えて取り消しの提訴ができるのは、株主総会が決議された日から3ヶ月の間です(会社法380条1項)。

なお決議の取り消しや無効の訴えを主張できる方の範囲については、以下の通りです。

【取り消し・無効の訴えが主張できる範囲】(会社法831条)

・株主

・取締役

・監査役

・清算人

株主の場合、1株でも保有していれば権利の行使が可能です。

株主総会の決議に瑕疵がある場合は取り消しの訴えができる

瑕疵とは、法律の解釈で「何かしらの欠点」を指す言葉です。株主総会で見られる瑕疵としては、招集通知の漏れや招集通知期間の不足などが挙げられます。

このような瑕疵を発見した場合には、株主が株主総会決議の取り消しを提起することが可能です。

また判例上の解釈では、他の株主に対する招集手続きに瑕疵がある場合に関しても、自らが原告となり取り消しの訴えを提起できるとされています。

このケースでは、たとえ自身の招集手続きなどに瑕疵が発見されない場合でも、訴えを起こすことが可能です。

決議の内容が法令などに違反するときは無効の訴えも可能

株主総会での決議に違反性が見られたときは、決議の無効を訴えることが可能です(会社法830条2項)。

取り消しの提訴は、株主総会の手続きに法令・定款違反が発覚した際などに行われることに対し、無効の訴えは「株主総会の内容や実態に法令・定款違反があった場合」となります。

ただし対象が法律違反となるため、たとえモラルに反するような内容であっても、法律に違反していなければ決議の内容は有効です。

無効の訴えが認められる場合、取り消しの訴えのように判決が確定するのを待つ必要がありません。

そもそも法律に反するような決議は認められないため、判決を待たずして無効という扱いです。加えて無効の訴えには、提訴期間の定め・提訴する者の制約などはありません。

法律に反する決議が見受けられる場合は、誰でも期間を問わずに無効の提訴が可能です。

株主総会が開催されていないときは株主総会決議の不存在を訴えることができる

中小企業などでは、株主総会が行われていないにもかかわらず、行われたように見せかけて議事録のみが作成されるケースがあります。

このようなときには、株式総会決議の不存在を訴えることが可能です(会社法830条1項)。株主総会の不存在については、以下のような場合が該当します。

・実質的に株主総会が行われていない

・総会の決議が法的に認められない

・招集通知などに著しい不備がみられる  など

上記のような状態が確認されるときは、誰でも株主総会決議の不存在を提起できます。

不存在が認められると、最初から決議がなかったものとして扱われるため、決議に関する法的なものが覆される可能性があります。

例えば取締役の選任などです。株主総会で取締役を選任していたにもかかわらず、不存在が認められると選任の決議は無効となるため、この取締役は存在しなかったものとして扱われます。

取締役の登記も無効となるため、受け取った報酬があるときには、支払った企業へ返還しなければなりません。加えてその取締役が参加した決議についても、無効となる可能性があります。

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経営陣の責任を追及する|会計帳簿閲覧謄写請求権を行使する

従来、取締役は企業から一定の地位を与えられており、委託された業務を適切に行う義務があります。

しかし企業の資金を私的に流用するなど、背任行為や善管注意義務を怠るケースも少なくありません。このようなときには、会計帳簿閲覧謄写請求権の行使が有効です。

取締役などに不正の疑いがみられるときは、会計帳簿を確認することで企業の会計状態を確認できます。

不正が発見された場合には、経営陣の責任を追及することが可能です。不正を働いた取締役などが企業に損害を与えているときは、賠償責任を追及することもできます。

ただし請求する権利については、株主にも条件が定められています。会計帳簿閲覧謄写請求権を有する株主の条件は、以下の通りです。

・総株主における議決権の100分の3以上を有する

・発行済み株式の3%以上を保有

上記の条件を満たした株主のみが、会計帳簿閲覧謄写請求権の行使ができます。ただしこの条件は、株主1人のみで満たす必要はありません。

例えば株主1人における株式の所有割合が3%に満たなくても、訴えを起こす複数人の株式が3%以上あれば、会計帳簿閲覧謄写請求権が与えられます。

閲覧謄写請求ができる書類

株主が権利を行使する必要があるときは、請求を行うことで会計帳簿の確認が可能です。閲覧謄写が可能な帳簿には主要薄と補助簿があり、以下のような書類が挙げられます。

【主要簿】

・総勘定元帳

・仕訳帳

【補助記入帳】

・金銭出納帳

・小口現金出納帳

・当座預金出納帳

・普通預金出納帳

・受取手形記入帳

・支払手形記入帳

・売上帳

・仕入帳    など

【補助元帳】

・売掛金元帳(得意先元帳)

・買掛金元帳(仕入先元帳)

・商品有高帳

・製品元帳

・材料元帳

・積送品元帳    など

【その他開示請求に該当する書類】

・手形小切手元帳

・契約書

・伝票      など

なお会計帳簿閲覧謄写請求権を行使すると会計帳簿以外にも、株主総会議事録などの閲覧謄写請求が可能です(会社法318条4項)。

また「会計帳簿に関する資料」には伝票・契約書などが該当し、主には会計帳簿の作成において必要な資料のことをいいます。

なお会計帳簿閲覧謄写請求にかかる費用については、会計帳簿閲覧謄写請求を行使する株主が負担しなければなりません。

従来、会計帳簿としては上記などが挙げられますが、会計帳簿閲覧謄写請求権を行使できる書類については識者の間で議論がされています。

裁判所の見解も事案ごとに判断がされており、請求理由との関連性に基づいて可否が判断されるようです。

実際に株主が賃貸借契約書の会計帳簿閲覧謄写請求を行った裁判では、東京地裁が会計帳簿またはこれに関する資料と認めた判例です。

被告となった企業は請求された書類に関して、会計帳簿に関する資料には該当しないと反論。

加えて「これが会計帳簿として認められるのであれば帳簿作成の際、わずかでも材料となった資料の全てが閲覧謄写請求の対象となり、法制度の趣旨に沿っていない」と主張したようです。

これに対して東京地裁は、「会計帳簿またはこれに関する資料に該当するか否かは、原則として資料ごとに判断すべき」などと指摘。

被告の企業は判決を不服とし控訴を行いましたが、最高裁判所は東京地裁の判決を支持し主張を退けたため、賃貸借契約書の会計帳簿閲覧謄写請求が認められました(東京高裁平成28年9月8日)。

次に米国の著名な投資家が日本の自動車部品などを製造する企業に対し、会計帳簿閲覧謄写請求権を行使したときの判例です。

この事案では、原告となった投資家が閲覧謄写請求を行った「法人税確定申告書控え及び案」は、会計帳簿に含まれないとして裁判所は請求を認めませんでした(東京地裁平成元年6月22日判決)。

このように会計帳簿閲覧謄写請求権の行使が可能な書類については、資料ごとに判断されることとなり、裁判所がその旨の解釈を示した判例もあります。

そのため少数株主が会計帳簿閲覧謄写請求権を行使する際は、請求理由と関連性が認められる書類を判断し、会計帳簿閲覧謄写請求を行う必要があるといえるでしょう。

計算書類閲覧謄写請求より請求する条件が厳しい

会計帳簿閲覧謄写請求権の行使は経営陣に対して有効な対抗手段ですが、請求できる条件は計算書類閲覧謄写請求権の行使と比べ、厳しいものとなっています。

まずは請求する理由ですが、計算書類閲覧謄写請求権の行使は理由が必要ないのに対して、会計書類閲覧謄写請求権の行使は正当な理由が必要です。

認められる可能性がある理由としては、以下のものが挙げられます。

・取締役の違反行為を差し止めたい

・企業が被った損害賠償を請求したい

・取締役の解任を訴えるべく、情報を収集したい  など

また会計帳簿に関しては、企業側に無条件での開示義務がないため、営業時間内に請求を申請するのが望ましいとされています。

営業時間外に問い合わせなどを行うと、嫌がらせ行為と捉えられ後で不利に働く可能性もあるため、営業時間内での請求が望ましいでしょう。

ただし違法行為の立証などは必要ない

会計帳簿閲覧謄写請求権の行使は条件が厳しいですが、違法行為などの立証までは必要ありません。

そもそも会計帳簿閲覧謄写請求は、事実を確認するための権利です。会計帳簿閲覧謄写請求を行う時点では、実質的に違法行為の立証は困難でしょう。

そのため違法行為の立証を必要条件としてしまうと事実上、請求を行うことが不可能といえます。実際に過去の裁判でも、立証の必要がないことが示唆された事例があるようです。

なお会計帳簿閲覧等請求は、書面で行う必要はありません。しかし違法行為の立証も行えていない段階であるため、トラブルにも発展しやすい状況です。そのため手続きに不安がある際などには、弁護士などを通じて内容証明郵便などによる通知を検討しましょう。

株主でない役員が請求するのは難しい

会計帳簿等閲覧謄写請求権を行使できるのは、原則として株主のみとされています。

仮に役員であったとしても、株主でない場合には権利を有していないため、会計帳簿等閲覧謄写請求を行うのは難しいでしょう。

また会計帳簿閲覧謄写請求に関しては、企業側にも拒絶事由が認められています(会社法433条2項)。以下の事由に該当する場合、企業側は会計帳簿閲覧謄写請求を拒絶することが可能です。

  • 株主が権利の確保、および会計帳簿閲覧謄写請求権の行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき
  • 企業の利益を妨げる、または株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき
  • 株主が会計帳簿閲覧謄写請求を行使する企業と、実質的に競業関係にある事業を営む、またはこれに従事するとき
  • 株主が会計帳簿閲覧謄写請求を行使して知り得た情報について、利益を得て第三者に通報したとき
  • 会計帳簿閲覧謄写請求を行使する株主が、過去2年以内において④に該当する行為を行っていたとき

上記に該当する場合、企業は会計帳簿閲覧謄写請求を拒絶できますが、拒否事由について立証する必要があります。

役員が適正に業務を行っていない場合は訴訟を起こせる|株主代表訴訟

取締役などが適切に業務を行っていない場合、株主代表訴訟も有効な法的手段のひとつです(会社法423条1項)。

株主代表訴訟とは、株主が企業に代わって役員などの責任を追及できる制度です。会社法では、「株主による責任追及等の訴え」と記載されています。会社法によると、取締役をはじめとする役員は、一定の地位を与えられており、自社の責任を負うとしています。

責任を全うせずに自社に損害を与えたときは、その責任を負わなければなりません。

株主が企業の代わりに責任を追及できる

法律で取締役の責任が定められているとはいえ、実際には適切に責任追及が行われていないケースも珍しくありません。実際に取締役などは企業内での権限が強く、不適切な業務を行っていたとしても、社内で指摘できる方は少ないでしょう。

しかし適切に運営されていない状態を放置しておくと、自社にとって有益とはいえません。不適切な運営が行われていると業績に影響するだけでなく、社会的な信用を失ってしまい、株価などにも影響を及ぼす可能性があるでしょう。

このような事態を改善するために、法的に設けられた権利が株主代表訴訟です。取締役が業務を適切に行っていないにもかかわらず、企業側が対処を講じない場合には、企業に代わって株主が取締役の責任を追及できます。

訴訟を起こせる株主の範囲と条件

代表訴訟を起こせる株主の範囲と条件は、法律によって定められています。訴訟を起こせる株主の範囲および条件は、以下の通りです。

・株式を公開している企業の場合、原則として6ヶ月以上引き続き株式を所有している(会社法847条1項)

・非公開会社の場合には、保有条件はなく株主であればいつでも提訴が可能(会社法847条2項)

上記の条件を満たしていれば、株主代表訴訟を行うことが可能です。ただし単元制度が用いられている企業の場合、定款に「株主代表訴訟を提訴できない」という旨を定められます(会社法847条1項)。この定めがあるときには、原則として株主代表訴訟を行うことができません。

なお代表訴訟の最中に株主でなくなったとしても、以下の条件を満たしていれば、引き続き訴訟を行うことが可能です。

・当該企業の株式交換・株式移転により、その親会社の株式を取得した

・当該企業が合併により消滅する場合、合併して設立された企業もしくは合併後にも存続する企業、またはその親会社の株式を取得したとき

上記の条件を満たしていれば引き続き訴訟を行えますが、不当利益の獲得が目的とみなされた場合などには請求できません(会社法847条1項但し書き)。

同族経営の企業では監視や責任追及が行われにくいため注意

株主代表訴訟は、同族経営の企業などで起きるケースが多いようです。同族経営で訴訟が多い理由としては、監視や責任追及が行われにくい環境であることなどが挙げられます。

特に中小企業で同族経営の場合、役員のほとんどが親族というケースも少なくありません。このような状況においては、役員が公私混同してしまうこともよく起きます。

例えば、自社の経費を私的に使用することなどです。経営者が経費で高級車を購入したり、親族でプライベートな旅行をしたりするケースは、聞いたことがあるという方もいるでしょう。

同族経営では例のように自身にも恩恵が発生することがあるため、監視や責任追及も甘くなりがちです。

しかしながら役員には企業に対して善管注意義務、忠実義務などがあります。

当然、これらの義務を怠ると自社の損害につながりかねません。全ての同族経営企業が該当するわけではありませんが状況を鑑みると、不正行為が見逃されやすい傾向にあるといえるでしょう。

同族経営の株主である場合には、不正などが起きやすい環境であるため、適切に運営が行われているか注意しておく必要があります。

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自身が保有する株式を売却する機会を確保する|売主追加の議案変更請求権を行使

売主追加の議案変更請求権を行使することも、少数株主が取れる法的手段のひとつです(会社法160条3項)。

株式の取引では自社が発行した株式について、発行した企業が特定の株主から株式を買い取ることが認められています。これを自己株式といいます。しかし特定の株主からのみ買い取ると、他の株主に不利益が生じる可能性があります。

実際に支配株主のみが取引に参加し、少数株主が取引の機会を失うケースも珍しくありません。

少数株主が売却する機会を確保するのに、有効な手段が売主追加の議案変更請求権を行使することです。

売主追加の議案変更請求権とは、企業が自己株式取得を行う際、自身も売主として追加するよう請求ができる権利をいいます。分かりやすく言い換えると「同じ企業の株式を有しているのだから、自身も取引に参加させてもらう」というものです。

この権利を行使することにより、少数株主であっても株式を取引する機会を確保できます。

なお売主追加の議案変更請求権を行使する際は、原則として以下の要件を満たす必要があります。

・企業が自己株式の取得を目的とした取引のみに行使できる

・該当する株式を保有する株主であれば誰でも可能

・原則として株主総会の5日前までに権利を行使すること

・売主追加の議案変更請求権が認められない例外に該当しないこと

保有する株式を適切な価格で売却可能

企業によっては少数株主に対して、経営から退いてもらうように計画するケースも少なくありません。この際、少数株主にいち早く経営から退いてもらうために、相場より高額な株価での買い取りが打診されることがあります。

しかし特定の株主にのみ打診がされた場合、他の株主からすると不公平な取引になってしまいます。中には「自身の株式も他の株主と同額で買い取るべき」と、考える少数株主もいるでしょう。

このようなときには、売主追加の議案変更請求権を行使することで、自身も売主に追加することが可能です。少数株主は権利を行使することにより、保有する株式を他の株主と同額で買い取ってもらえます。

上場していない企業・閉鎖会社の株式であっても適正価格で取引できる

非上場株式の場合、市場価格が存在しないため、取引は売主と買主の合意に基づいて行われます。

一方で目安となる金額がないため、協議が進まずトラブルに発展するケースも珍しくありません。

また売主が適切な価格を訴えたとしても、買主は買い取りを拒否できるため、売主が妥協しなければならないなど不利な展開になることも多いようです。

しかしこれでは、公正な取引が行われているとはいえないでしょう。このような非上場株式のときにも、売主追加の議案変更請求権を行使することが効果的です。

権利を行使することで、非上場株式であっても、適正な価格での取引がしやすくなります。

原則として定められたプロセスを経る必要がある

売主追加の議案変更請求権を行使するときは、原則として以下のプロセスで手続きを進める必要があります。

①売主追加の議案変更請求権を行使する際の原則

・企業側は株主総会の2週間前までに、株主全員に対し権利を行使できる旨を通知

・売主追加の議案変更請求権を行使する株主は、株主総会の5日前までに議案を申請

②株主総会および取締役会による決議

・請求を加味し、具体的な決議が行われる

③企業の承認

④企業へ譲渡の申込み

⑤株主への通知・告知

一般的には、上記の流れに沿って手続きが行われます。ただし以下に該当する場合は例外として扱われ、売主追加の議案変更請求権を行使することはできません。

・定款にて売主追加の議案変更請求権を認めない旨を定めたとき

・株主の相続人、他の一般継承人から株式を取得するとき

・市場価格がある株式を市場価格以下で取得するとき

上記に該当するときには、売主追加の議案変更請求権が認められないため注意が必要です。加えて株主への通知も不要とされているため、自身で確認を行う必要があります。

株主総会の招集手続きに疑念がある|株主総会の招集手続等に関する検査役選任請求権

株主総会の招集手続きなどに疑念があるときは、招集手続きに関して検査役の選任請求が可能です。少数株主には、この検査役の選任請求権が認められています。

なお「選任請求」とはある目的を果たすために、特定の人物を選んで任務に就かせるのを請求することです。主には請求権を持っている方が、裁判所や役所または県知事などに対して、申し立てを行います。

株主総会の招集手続きに関する検査役の選任請求の場合、株主総会の招集および決議方法の調査を目的に、検査役の選任を裁判所へ請求することが可能です。

ただし株主が権利を行使するときは、以下の条件を満たす必要があります。

・総株主における議決権の1%以上を保有している

・上記議決権を6ヶ月以上継続して保有している(公開会社のみ)

申し立てを受けた裁判所は、不適法で却下するときを除き、検査役を選任しなければなりません。選任された検査役は必要な調査を実施し、結果を記録した書面などを裁判所へ提出します。

改めて株主総会を招集したい|株主総会招集請求権

株主総会などに疑念があり、改めて株主総会を招集したい場合には、少数株主も株主総会招集請求権を行使することが可能です(会社法297条)。

少数株主は株主総会を行う目的、または招集の目的を明示することで、取締役などへ招集の請求ができます。この権利を行使できる株主の条件は、以下の通りです。

・総株主における議決権3%以上を保有している

・上記議決権を6ヶ月以上継続して保有している(公開会社のみ)

なお少数株主から請求があったにもかかわらず、招集が行われない・請求から8週間以内に招集の通知が行われない場合には、株主は裁判所の許可を得て株主総会を招集できます。

株主総会で議題の提案を行うとき|議題提案権、議案通知請求権

株主総会を招集したときは、少数株主も議題の提案などが可能です。これを議案提案権といい、株主が一定の事項を株主総会の目的とすることを請求できます。

また一般には、以下の2つの権利を合わせて指すことがあります。

・株主が提出する議案の要領について、招集通知への記載・記録を請求する権利(議案通知請求権 会社法305条)

・株主総会において、議題につき議案を提出することができる権利(議案提案権 会社法303条)

なお権利を行使するためには、以下の条件を満たしていることが必要です。

・総株主における議決権1%以上保有、または300数以上

・上記議決権を6ヶ月以上継続して保有している(公開会社のみ)

なお1人の株主で条件を満たせなくても、複数人の株主で条件を満たしていれば、共同提案として請求が認められます。

取締役が業務を適切に行っているか確認したい|業務執行に関する検査役選任請求権

少数株主は取締役の業務に関しても、検査役選任請求権を行使することが可能です(会社法306条)。

企業の業務において不正行為や法令違反もしくは、定款に違反するような事実が疑われるときには、裁判所に対して検査役の選任を申し立てることができます。ただし権利を行使するためには、以下の条件を満たすことが必要です。

・総株主における議決権3%以上を保有、または発行済み株式の3%以上を保有

・上記議決権を6ヶ月以上継続して保有している(公開会社のみ)

取締役の業務に関する検査役選任請求権を行使する場合も、請求を受けた裁判所は検査役を選任しなければなりません。ただし、不適法などで認められなかった場合は除きます。

不正行為が発覚した役員を解任したいとき|役員解任の訴えの提起

株主総会における手続きの不備、取締役の不正行為が発覚した場合などには、少数株主は

役員の解任を求める訴えを提起することが可能です(会社法854条)。

この権利は取締役などが行う業務に不正行為、または法令違反などの疑いがあるにもかかわらず、解任する議案の提起が否決されたときに請求ができます。ただしこの権利を行使できるのは、以下の条件を満たした株主です。

・総株主における議決権3%以上を保有、または発行済み株式の3%以上を保有

・上記議決権を6ヶ月以上継続して保有している(公開会社のみ)

なお権利の請求は株主総会で解任の議案が否決されてから、30日以内に行う必要があります。

企業の簡易合併に反対するとき|簡易合併等に対する反対権

少数株主には、企業における簡易合併などに反対する権利も認められています(会社法796条4項)。権利を行使することで簡易合併などにより、株主総会決議が省略されるなどの事態を防ぐことが可能です。この権利を行使するためには、以下の条件を満たす必要があります。

・定足数で見た場合に、特別決議を否決できる議決権以上を有する株主

なお権利を行使するときは、会社法797条3項の規定による通知・公告の日より、2週間以内に反対する旨を通知しなければなりません。

まとめ

少数株主の場合、不利な立場に追い込まれることもよくあります。そのため自身の主張が認められず、不利益が生じてしまうケースも少なくありません。

一方で少数株主にも支配株主や経営陣に対して、取れる法的手段があります。うまく交渉を進めることができれば、自身の適切な利益確保にも期待できます。

しかし法的手段には、専門的な知識が必要となるため、知識が少ない方が自身のみで手段を講じるのは困難でしょう。

このような場合には弁護士など、専門家への相談も検討することが必要です。少数株主の方も与えられた権利を適切に利用し、自身の利益確保を目指しましょう。