新株式発行により持株比率を低下させられた!株主損害賠償請求訴訟の方法!
会社が、少数株主の持株比率を低下させようとして、新株式発行の増資を行い、少数株主の持株比率を下げようとすることがあります。
この時、会社は、オーナー又は経営陣や友好関係にある第三者に新株式を有利な条件で引き受けさせて、全体として、少数株主の持株比率を低下させようとするのです。
多くの場合では、その新株式発行は、少額での新株式の発行ですので、オーナー又は経営陣や友好関係にある第三者は、少額で安く新株式を取得することができ、反対に、少数株主は、新株式を割り当てられなかったり、資金的な理由で増資に応じることができず、巨額の損失を被るのです。
株式に譲渡制限のついた非公開会社においては、新株式の発行には株主総会の特別決議(株主の3分の2の承認が必要)が必要ですが、少数株主は、3分の1も株式を保有していないことが多く、オーナーや経営陣が強行しようと思えば、このような新株式の発行は強行することができてしまうのです。
このような新株式の発行が強行された場合、少数株主はこのような損害を回復することはできないのでしょうか。
新株式発行により持株比率を低下させられた場合の損害回復の方法!
新株式の発行が、第三者割当であり、特に有利な発行価格での新株式の発行であっても、株主総会の特別決議(株主の3分の2の承認が必要)さえあれば適法な新株式の発行になってしまいます。
新株式の発行が、「少数株主の持株比率低下の目的」であれば、新株式発行の本来の目的と異なりますので、不公正発行であり、少数株主は、その新株式の発行を差し止めることができます。
最高裁判所の主要目的ルールに基づき、「少数株主の持株比率低下の目的」としては、新株式発行の本来的目的である「資金調達目的」が存在していたとしても、「少数株主の持株比率低下の目的」の方が主要な目的であるのであれば、それは、「少数株主の持株比率低下の目的」ということができ、新株式の発行の差し止めは可能とされています。
しかし、この新株式の発行の差し止めは、新株式の発行までに効力を発生させる必要があり、新株式発行の差し止めの仮処分を裁判所に申し立てたとしても、裁判所が判断をするのに最低でも数日はかかってしまうことから、新株式発行の差し止めの仮処分の申立書を作成する時間を考えますと、少なくとも、新株式の発行日の1週間前には弁護士に依頼をする必要があり、そう考えると、新株式発行の事実を知ったら直ちに行動に移す必要があります。
新株式発行の事実を知ってからどうすれば良いのかインターネットで検索して調べているようでは、手遅れになってしまう可能性が高いのです。
また、新株式発行を差し止めしたとしても、会社は、それ以降も、常に、少数株主の持株比率の低下のため、次々とセ策を講じてくると思われ、また、そのような少数株主は「敵対的少数株主」だとみなし、より敵視政策を開始するとともに、少数株主の株主権を徹底して塩漬けにしようとするでしょうから、少数株主としては、さらにいっそう居心地の悪い会社となるので。
特にその加害者であるオーナーや経営陣が、親族の場合は、その居心地の悪さは筆舌に尽くせません。
株主による会社や役員に対する株主損害賠償請求訴訟が可能!
この点、少数株主には巨額の損害が発生するのですから、①会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求や、②役員に対する任務懈怠責任に基づく損害賠償請求をすることができると良いのですが。
この新株式の発行の手続きは、すべてしっかり法律に基づいて行われており、適法なので、本当に、会社や役員に対して、損害賠償請求をすることができるかが気になります。
第三者割当で有利発行&不公正発行の事例
この点、東京地方裁判所 平成27年(ワ)第8708号 損害賠償請求事件 平成30年3月22日(下記)は、第三者割当であり、特に有利な発行価格での新株式の発行であって、株主総会の特別決議(株主の3分の2の承認が必要)が行われている適法な新株式の発行になっている事例で、ただ、新株式の発行が、「少数株主の持株比率低下の目的」である不公正発行の場合ですが、会社及び役員に対して、巨額の損害賠償義務を認定しています。
新株式の不公正発行(少数株主の持株比率を低下させる目的での新株式の発行)は「違法」であると認定しているのです。素晴らしいですね。
【争点:新株発行の違法性及び役員の任務懈怠について】 (1) 前記認定判断によれば,本件新株発行は,発行済株式総数100株に対してその約9倍に当たる899株を新たに発行するものであり,原告保有株式の持分比率を100分の8から999分の8へと大幅に低下させるものであった。しかも,1株1万円という払込金額は,H草稿の評価結果のおよそ200分の1,別件鑑定の評価結果の9000分の1という著しく低廉な価格である。上記の各評価結果に従えば,上記899株の払込金額の総額はH草稿の評価結果からすると18億6093円(=207万円×899株),別件鑑定の評価結果からすると809億1000万円(=9000万円×899株)になり得るところ,被告Y1の払込金額は899万円にすぎず,被告Y1にとって著しく有利なものであり,逆に,払い込むべき金額が極端に少なくなったことに加えて持分比率が大幅に低下したことで,原告保有株式の価値を著しく毀損するものであったことは明らかである。 (2) また,前記認定事実によれば,被告Y1は,原告が退社後も株主権を行使して定款等の閲覧,謄写を求めてくることを煩わしく思い,原告を被告会社から排除するため,原告保有株式を取得することをI事務所の弁護士に相談し,3月総会招集時点で近々に本件株式取得を行うことを予定しつつ本件新株発行を行っている(認定事実(3),(4),(6))。しかも,被告Y1は,3月総会の前日にEを通じてH草稿を受領し,原告以外の株主とはその内容を共有したものの,原告にはこれを知らせていない(認定事実(5))。そうすると,被告Y1は,自らの支配権を維持するとともに,もっぱら被告会社から原告を追い出す目的をもって本件新株発行を行っていることは明らかである。 略被告らの主張する資金調達目的は仮装の理由付けといわざるを得ないのであり,本件新株発行の目的はもっぱら被告会社から原告を追い出すことにあったというのが相当である。 (3) そうすると,本件新株発行については,3月総会において原告以外の全株主(100株中92株を有する)の賛成をもって募集事項の決定を取締役に委任する旨の決議がされるなど(前提事実(4)),有利発行に関する所定の手続を経ているといえるものの,原告保有株式の価値を毀損するものであり,しかも被告Y1がもっぱら原告を被告会社から排除するために行ったものであるから,著しく不公正な方法で行われたものであるといえる。そして,本件新株発行が原告のみを殊更に狙った排除的行為であったことからすると,その違法性は上記の手続を経ていることで否定されるものでもなく,本件新株発行は原告に対する不法行為(民法709条)になるとするのが相当である。 (4) そして,被告Y1は,被告会社の代表取締役として,法令を遵守し,公正な方法により募集株式を発行する注意義務を負っており,その業務執行に当たっては特定の株主を著しく不当に扱ってはならなかったのであるから,同義務を怠り,原告を排除する目的で3月総会を招集しH草稿の内容も原告に知らせずに上記のような違法な本件新株発行に係る株式募集事項の決定に関する議案を上程し,取締役として委任を受けた募集事項の決定をしたことは,被告会社に対する任務懈怠に該当する(会社法429条1項)。この点は,上記と同様,3月総会でいわゆる特別決議がされているからといって左右されるものではない。 (5) 略 (6) 以上により,本件新株発行は,原告のその余の主張について検討するまでもなく違法なものであり,原告に対する不法行為になり,被告Y1には本件新株発行に関して被告会社に対する任務懈怠があるといえる。 |
株主割当だが実質的に第三者割当で有利発行&不公正発行の事例
また、東京地方裁判所 平成26年(ワ)第17978号、平成26年(ワ)第17979号 新株発行不存在確認請求事件(第1事件),損害賠償請求事件(第2事件) 平成28年9月28日(下記)は、株主割当であるものの、実体としては、第三者割当であり、特に有利な発行価格での新株式の発行であって、株主総会の特別決議(株主の3分の2の承認が必要)が行われている適法な新株式の発行になっている事例について、少数株主は「年で長くはないから,そんなのいらない。」と答えて株主割当による新株式の引き受けを拒否したとして、会社に対する、巨額の損害賠償義務を否定しています。
少数株主が「年で長くはないから,そんなのいらない。」と言って株主割当による新株式の引き受けを拒否したので会社の不法行為が認定されなかったのであり、そのようなことを言ったのであれば不法行為とならなくてもやむを得ないと思われますが、これを考えると、少数株主が資金的に乏しく増資資金がないため「否応なく」株主割当による新株式の引き受けに応じることができなかったのであれば、それは十分、不法行為が成立するとされる可能性はあるのではないかと思われます。これも素晴らしい裁判例ですね。
【争点:新株発行の不法行為性】 (1) 上記2のとおり,本件新株発行に瑕疵は認められず,上記1(1)カのとおり,原告は,本件新株発行において,自ら募集株式の引受けを申し込まなかった結果,その保有する株式の価値が希釈化することとなったにすぎない。 したがって,被告Bが被告会社の代表取締役として行った本件新株発行が,原告に対する不法行為に当たるとは認められない。 (2) これに対して,原告は,被告らの主張によると,被告Bは原告に対して募集株式を引き受けなければ株式保有割合が低下し,株式の価値が著しく減損することを全く説明していないところ,被告Bは原告が損害を被ることについて理解していないことを奇貨として,あえてそれ以上の説明をせず本件新株発行を実行したものであるから故意による不法行為が成立するとか,代表取締役である被告Bは株主に損害を与えないようにする善管注意義務を負っているにもかかわらずこれを怠ったので,過失があると主張する。 しかし,新株を発行するに当たり,会社またはその代表者に対して上記のような説明義務を課す会社法上の規定は存在しないし,そのほかに法的義務が発生するとは解されず,原告独自の見解というほかない。また,上記1(1)カのとおり,原告は,自らの判断として,被告Bに対し,「年で長くはないから,そんなのいらない。」と答えて引受けを拒み,申込みの期日は徒過している以上,不法行為が成立するはずはない。 よって,原告の上記主張は採用できない。 |
まとめ
以上のとおり、新株式発行により持株比率を低下させられた場合、損害回復の方法として、株主による会社や役員に対する株主損害賠償請求訴訟を提起することは非常に有効と思われます。
新株式発行により持株比率を低下させられた場合も、損害回復の方法はあるのです。頑張っていきましょう。