非上場株式・少数株式の問題点

1.非上場株式・少数株式の問題点

日本には、株式会社が、約229万社あります。そのうち上場会社が約3900社で、全体の0・2%に過ぎません。つまり、株式会社のうち99・8%が非上場会社なのです(2023年「上場企業サーチ」データより)。そのような非上場会社の少数株主は困難な問題に直面するケースが多々あります。

具体的にどのような困難な問題に直面するのかを、非上場の同族企業「タナカ製菓」(仮称)の少数株主である田中次郎さんを例に紹介しましょう。

田中次郎さんは、父親から受け継いだ非上場株式・少数株式を保有していますが、タナカ製菓の経営には一切関与していません。タナカ製菓の社長は田中次郎さんの兄であり、兄と同じくらいの株式を保有している親族が何人かいます。そして、田中次郎さんは3つの問題で頭を悩ませています。

① 公私混同・高額な役員報酬・配当金の不払い

② 株式の売却が非常に困難

③ 巨額の相続税リスク

1つ目の問題は、タナカ製菓では、コーポレート・ガバナンスが機能しておらず、社長や経営陣による公私混同・高額な役員報酬・配当金の不払いが日常化しています。田中次郎さんは、会社の利益が、主に役員報酬に充てられていることを憂慮しています。

また、配当金が非常に少なく、株主としての利益を得られないことに不満を持っています。その他にも、社長や経営陣による、会社の公私混同が行われています。このような株式を保有していても意味がない状態なのです。

2つ目の問題は、タナカ製菓の株式の売却が非常に困難なことです。田中次郎さんは、タナカ製菓の経営方針に疑問を持ち、自身の保有している株式を売却しようと考えましたが、非上場株式・少数株式の流動性の低さから適切な買い手を見つけられずにいます。また、タナカ製菓に申し入れても、会社は株式をなかなか買い取ろうとしません。株式の売却先が見つからないのです。

そして3つ目の問題が、巨額の相続税が賦課されるリスクです。田中次郎さんの父親が亡くなったとき、彼はタナカ製菓の株式を相続しました。それが原因で巨額の相続税を賦課され、彼はその支払いに頭を抱えました。

結局、相続した現預金や不動産を売却して納税資金を捻出せざるを得なくなったのです。父親からの相続財産は、もうこのタナカ製菓の株式くらいしか残りませんでした。今後、田中次郎さんの子供の代にも相続税の問題は発生すると予想され、田中次郎さんが高齢になった現在においては、巨額の相続税に対する対策が急務なのです。

以上のように、田中次郎さんの事例から見て取れるように、非上場株式・少数株式を保有する少数株主の皆様は、①公私混同・高額な役員報酬・配当金の不払い、②株式の売却が非常に困難、③巨額の相続税リスクという、三つの問題に直面しています。それでは、それぞれの問題がどうして起きるのかを考察していきましょう。

2.非上場会社の公私混同・高額な役員報酬・配当金の不払い

まず、非上場貨車の少数株主は、会社の経営に対して影響力を発揮できません。

会社の経営権を有するためには、議決権のある株式の過半数を保有する必要があります。非上場会社の場合、創業者やその一族がしばしば議決権のある株式の過半数を保有しており、少数株主として株式を保有していても、会社に対してその影響力を行使することはほぼ不可能です。また、議決権のある株式の過半数を保有していなければ、株主総会で提案を通すことができる可能性はほとんどありません。

さらに、非上場会社によっては、株主総会が開催されない場合もあります。したがって、非上場株式・少数株式を保有しているだけでは、企業の経営に直接関与するという利点はほとんどありません。

その結果、非上場会社、特に家族経営・同族経営の会社では、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の機能不全が生じ、①公私混同・高額な役員報酬・配当金の不払いが生じやすい背景があります。ここでいうコーポレート・ガバナンスとは、企業の経営者や株主だけでなく、従業員や取引先、社会全体の利益を守るための組織体制や規律のことを指します。

その機能不全が起こる主な理由は、以下の3点にまとめられます。

①株主と経営者の一致

非上場会社、特に家族経営・同族経営の会社では、経営者と大株主が同一人物であることが多いです。そうすると意思決定は迅速に行われますが、その一方で公正性が疎かになりがちです。つまり、経営者の利益に直結する経営方針が優先され、少数株主の利益は二の次になるのです。

②透明性の欠如

非上場会社は上場会社と比べて情報開示義務が少ないため、経営状況の透明性が低くなります。これが会社の真の状況を把握することを難しくし、株主の利益を守るための適切な意思決定を妨げます。

③監督機能の不足

非上場会社では、しばしば独立した監督機能が不足しています。上場会社では、取締役会や監査役その他の組織体が経営者の決定を監視し、場合によっては指導する役割を果たします。しかし、非上場会社ではこれらの役割がしばしば存在しない、または十分に機能していないため、経営者の意思決定に対するチェックが弱まります。

非上場会社において、非上場会社の公私混同・高額な役員報酬・配当金の不払いに関する意思決定は、取締役会や株主総会の決定に委ねられています。利議決権のある株式の過半数を保有している創業者一族が配当を行うことを決定しなければ、適切な会社運営は行われませんし、少数株主に不利益な会社運営が行われることとなります。

したがって、創業者一族が経営権を握っている非上場会社では、特に少数株主の利益を守るというコーポレート・ガバナンスの機能が弱まり、結果として、①公私混同・高額な役員報酬・配当金の不払いが行われる、少数株主が経営方針に影響を及ぼすことが困難になるなど、少数株主にとって不利な状況が生じやすくなります。

3.非上場株式・少数株式の売却は非常に困難

非上場会社の少数株主が自身の株式を売却したいと思ったとしても、②株式の売却が非常に困難です。その主な理由は、「流動性が低い」からです。

「流動性」とは、ある資産がどれだけ短時間で、価値を損なわずに現金化できるかを表す指標です。

上場株式は証券取引所において、常に買い手と売り手が存在します。これにより、株式を手放したいときに売り、株式を手に入れたいときに買うことが可能です。このように、売りたいときにすぐに売れる性質を「流動性」が「高い」と言います。日本国内には証券取引所が存在し、それぞれが上場会社の株式取引を行っています。

一方、非上場株式は、証券取引所に上場していない企業の株式を指します。上場株式との違いは主にその流動性と透明性の低さと言えます。非上場株式は、公開市場での売買が行われません。これは、企業の情報が一般にはあまり公開されておらず、投資家がその企業の真の価値を判断するのが難しいためです。

これらの非上場会社の株式の価値は、一般的には企業の業績や財務状況に基づいて評価されます。しかし、具体的な価格を決定するのは難しく、公正な評価を行うためには専門的な知識と経験が必要となります。

また、非上場株式・少数株式の売却を検討する場合、購入希望者を見つけるのが容易ではありません。非上場株式・少数株式は流動性が低く、市場価格が明確に決まっていないため、売買が成立しにくいのです。

法律の建前上、非上場株式・少数株式も買い手が見つかりさえすれば売却ができます。しかし、非上場会社の少数株主となるメリットはほとんど無いため、買い手を見つけることは大変困難となります。

さらに、会社に株式を買ってほしいと申し入れても、会社に株主からの申し入れに応じる義務はありません。そのため、会社からは不当な安値でしか買い取らないと言われ、結局は不当な安値で手放さざるを得なくなります。このように、少数株主が経済的利益を手にすることはとても困難な状況にあります。

また、非上場株式・少数株式は、主に家族経営・同族経営の会社において、経営者とその親族が株式を保有します。これらの株式は、経営の安定化や経営権の確保を目的に、一部の人々が中心となって保有する傾向があります。そのため、非上場株式・少数株式については、市場での売買が原則として存在しないため、売却先を見つけることが困難なのです。

さらに、経営陣や親族間での事情や約束が絡むことが多く、それによって売却が一層難しくなることがあります。例えば、経営者が経営権を守るために、親族間で株式の売買を自由にしないという取り決めが存在することもあります。

また、非上場株式・少数株式は、譲渡制限株式として、定款の定めもしくは企業の経営陣や株主間の合意により、その売却や譲渡が制約されています。譲渡制限株式においては、株式譲渡に対する取締役会や株主総会の承認が必要であったり、企業自体や他の株主に対して先に売却の機会を提供する義務(優先交渉権)があったりします。

このように非上場株式・少数株式譲渡制限株式である場合、さらに株式の流動性を低下させ、株式の売却の困難さを増大させます。

4.非上場株式・少数株式の巨額の相続税リスク

非上場株式・少数株式の遺産相続は、特殊な問題を引き起こす可能性があります。特に、相続財産の大部分が自社株(非上場株式・少数株式)というケースで、その問題は発生します。

非上場株式・少数株式を相続するとき、特に留意すべき問題は、巨額の相続税が発生し得るという事実です。この相続税の額は、しばしば遺産を相続する者を驚愕させるほどの金額になます。

このような巨額の相続税を納付するためには、現金を手元に保有しているか、流動的な資産を十分に持っていることが必要です。また、相続財産の中に、非上場株式・少数株式以外に、現金や流動的な資産が十分にあることも重要です。しかしながら、多くの相続人がそのような経済的余裕を持っているわけではありません。

加えて、遺産として相続した非上場株式・少数株式を売却し、相続税の支払いに必要な現金等を調達したくても、非上場株式・少数株式の売却は非常に困難であるのが現実です。

結果として、非上場株式・少数株式の相続税の支払いに必要な原資を確保することができず、相続を放棄しなければならないという事態に直面するケースも珍しくありません。

4−1.非上場株式・少数株式を相続すると危険な理由

非上場株式・少数株式を相続した場合に支払う相続税が巨額になる理由としては、主に次の2つが挙げられます。

①資産価値が高いため

相続税は、相続する資産の額が大きければ大きいほど高い税率が課される累進課税制度で算出されます。

そのため、非上場株式・少数株式の資産価値が高ければ高いほど、相続税もそれだけ巨額になります。

上場株式の場合、その評価額は証券取引所などでの市場価格により明確になります。

しかし、非上場株式・少数株式の場合、市場価格が存在しないため、税務署は独自の算定方法(財産評価基本通達)を用いて資産価値を評価します。創業から長年にわたり経営され、資産が蓄積されている企業の場合、非上場株式・少数株式の資産価値が高額になる傾向があります。また、業績が良好な企業の場合、非上場株式・少数株式の価値が高く評価されます。

このように資産価値が高く算出された非上場株式・少数株式を相続した場合、巨額の相続税が発生することとなりますが、相続人が、巨額の相続税を支払うだけの多額の現金等を持っていれば問題ないのですが、そこまで多額の現金等を持っているケースはそれほど多くないのです。

②相続税の増税

非上場株式・少数株式の相続税が巨額になる理由の一つとして、2015年(平成27年)の相続税法の改正による相続税の増税が挙げられます。

2015年(平成27年)の相続税法改正により、相続税が増税され、非上場株式・少数株式を持つ人々に対する租税負担が増大しました。相続税法改正により、基礎控除が縮小し、相続税率が引き上げられました。

まず、以下の通り、基礎控除が縮小し、相続税が増税されました。

改正前の基礎控除

5000万円(定額控除額)+ 1000万円(相続人一人あたりの控除額)× 法定相続人の数

改正後の基礎控除

3000万円(定額控除額)+ 600万円(相続人一人あたりの控除額)× 法定相続人の数

さらに、相続税率は、次の通り、課税価格が2億円超~3億円以下の場合と6億円超の場合において、引き上げられました。

課税価格               税率        基礎控除

1000万円以下         10%

1000万円超~3000万円以下 15%        50万円

3000万円超~5000万円以下 20%        200万円

5000万円超~1億円以下    30%        700万円

1億円超~2億円以下       40%        1700万円

2億円超~3億円以下       45% (改正前40%)  2700万円

3億円超~6億円以下       50%        4200万円

6億円超             55% (改正前40%)  7200万円

このように、基礎控除の縮小と相続税率が高くなったことによる相続税の増税に加えて、現在の株価高騰傾向により非上場株式・少数株式の評価額も軒並み高くなっています。

4−2.巨額の相続税をどう扱うか?

相続税は、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内に支払う必要があります。

しかし、巨額の相続税を支払うための現金が足りない場合、特に非上場株式・少数株式を相続した場合、非上場株式の適正価格での売却が難しいため、相続人が相続税の支払いに窮するケースが多く見られます。その結果、やむを得ず相続放棄をする相続人が増えているのが現状です。

相続放棄とは、被相続人の財産を相続する権利を一切放棄することです。相続の対象には、現金や不動産、株式などの資産の他、借金も含まれます。したがって、被相続人の借金が資産より多い場合、相続放棄は有効な選択肢となりますが、非上場株式・少数株式の相続税を支払うための納税資金が準備できない場合も、相続放棄が主要な選択肢になるのです。

しかしながら、この相続放棄という制度には制限が存在します。相続放棄を行うためには、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申立てを行わなければならず、この期間を過ぎると基本的には相続放棄をすることはできません。つまり、相続税の申告期限が10ヵ月後であるからといって、相続税を支払う納税資金の調達を考える時間を取ろうとすると、相続放棄の申立期限を過ぎてしまう可能性があります。

さらに、もしこの3ヵ月以内に相続人が何も意思を示さなかった場合、法的には単純承認(借金を含めて相続)したとみなされ、非上場株式・少数株式の相続が確定し、その結果、巨額の相続税を納税したくても納税資金がない、かつ、相続放棄ができない状態に陥ることもあります。

このような状況になった場合、自己破産手続きが最後の選択肢となってしまうかもしれません。

しかし、自己破産をしても納税義務は免除されず、納税するまでは税務署から追及され続けます。以上のような複雑な状況が生じるため、非上場株式・少数株式を相続するか否かについては、適切な計画と対策が非常に重要となります。

4−3.非上場株式・少数株式の売却や現金化は難しい

日本の株式会社の99・8%は非上場会社です。

上場会社の株式は証券取引所を通じて容易に売買できますが、非上場株式・少数株式を売却するのは非常に困難であるのが現状です。その中で非上場株式・少数株式を売却する方法として、以下の3つが挙げられます。

①買い手となる第三者を自分でみつける

非上場会社の株式は公開市場が存在しないため、株式を買ってくれる第三者を自力で探さなければなりません。これが必要なのは、非上場株式・少数株式が流通していないがために、投資家に対して株式の価値をアピールし売り込むことが困難だからです。

このため、主な買い手としては、その非上場会社の他の株主や、その非上場会社の経営権を狙う投資家などが考えられます。

しかし、彼らがすぐに株式を買ってくれることはほとんどありません。もし運良く買い手が見つかったとしても、直接交渉が必要となり、価格を下げられることも多いのです。これは、株式を売却しようとしている企業が優良企業であっても例外ではありません。

また、希望する価格で買い手が見つかったとしても、非上場会社自体が株式の売却を認めないケースも存在します。特に、同族企業などで創業者とその親族が多くの株式を保有している場合、新たな株主の参入を好ましく思わず、株式譲渡が認められないことも多いのです。

このように、非上場株式・少数株式の売却・処分のために自力で買い手を見つけるという選択肢は、容易ではない困難な道のりとなります。

②会社に買い取ってもらう

非上場株式・少数株式を売却する方法として、弁護士などの専門家にサポートをしてもらい、その非上場会社と任意交渉を行うことで、株式を買い取ってもらうという方法もあります。

ただし、会社は株式の買取りに応じる法的義務を持っていません。会社にとってメリットがなければ、交渉に応じてもらえない可能性が高いのです。

また、会社に交渉に応じてもらったとしても、会社には非上場株式・少数株式を買い取る義務もありません。

会社としても、非上場株式・少数株式を買い取るのに何億もの資金を支払いたくなく、できるだけ安い価格で買い取りたいのが実状です。そのため、仮に、会社に買い取ってもらえる場合の株式買取価格は、適正価格ではなく、会社の主張する著しく低い価格になりやすいのです。

そして、会社は、株主の足元を見て安く買い取ることにより、オーナー一族に株式を集約させ少数株主を排除することもできます。特に、オーナーの横暴や、ワンマン社長の専横や、不誠実な同族会社や、会社支配権の濫用などが行なわれている会社では、非上場株式・少数株式を適正な価格で買い取るようなことはまずありえません。

このように、非上場株式・少数株式を売却・処分する場合の会社に買い取ってもらう方法も、なかなか難しいのが現実です。

③民事調停を利用して売却を行う

もう一つの選択肢として、民事調停を利用して非上場株式・少数株式の売却を行う方法があります。民事調停には強制力はありませんが、裁判官が介入し、当事者間の調整を行います。しかし、民事調停は当事者間の任意の合意に基づくため、非上場株主・少数株主にとって必ずしも有利な状況になるわけではありません。多くの場合、非上場株式・少数株式の売買価格は適正価格よりも低くなります。

これらの事情から、非上場株式・少数株式の売却・処分は容易なものではないと言えます。

しかし、それぞれの選択肢のリスクと会社の思惑を理解することで、売却戦略を策定し、売却の可能性を高めることができると言えます。

4−4.非上場株式・少数株式の物納とは?

相続税の納付は、現金一括納付が原則となっています。これは、相続税が生じたタイミングで、遺産の受取人(相続人)が、相続税の全額を一度に現金で税務署に納付するという意味です。

しかしながら、相続人においてこの現金一括納付が困難な状況があることを考慮し、例外的な規定が設けられています。

その一つが「延納」という制度です。延納は、一括納付が難しい相続人が、税務署へ申請を行い、担保を提供することで許可を得られた場合に、相続税を分割して納付することができる制度となっています。

さらに、現金一括納付が困難であるだけでなく、延納による納付も困難な状況に対応するために、「物納」という制度も存在します。物納とは、文字通り、現物で相続税を納付する方法のことを指します。

ただし、物納を利用するには一定の条件があります。

まず、所轄税務署から事前の許可を得る必要があります。その許可を得るためには、物納を行う必要があること、金銭での支払ができないことを示す証明が必要であり、また、物納するものが税法に従った形で提供できることなどが審査されます。

では、非上場株式・少数株式はどう扱われるでしょうか?

非上場株式・少数株式は物納できる財産の中には含まれますが、優先順位という観点から見ると、あまり高くはありません。具体的には、非上場株式・少数株式は優先順位の第2順位に位置付けられており、相続財産に第1順位の物件(例えば、不動産)が存在する場合、それが優先して物納されなければならないという制度があります。

日本における相続のケースでは、相続財産の中に不動産が含まれるケースが多いため、実際に非上場株式・少数株式を物納の対象とするケースはあまり多くありません。

さらに、非上場株式・少数株式は、税務署の判断によっては「管理処分不適格財産」とみなされ、物納が許可されない場合もあります。これは、非上場株式・少数株式が市場のない資産であるため、公平な価格で売却することが難しく、税務署がその管理や処分に手間取る可能性があるからです。

4−5.事業継承税制による相続税の繰り延べとは?

近年、相続税に関連し、事業承継を促進するため事業承継税制という制度が導入され、特に非上場会社の株式等を相続する際に一定の条件下で納税が猶予されるようになっています。この制度は、事業継続に向けた経済的な負担を軽減し、中小企業の持続的な成長を支援することを目的としています。

ただし、この事業承継税制は、その名の通り事業の継続を前提とした制度であるため、事業の運営または経営に関与できない相続人の場合には、その利用が制限されます。たとえ、非上場株式・少数株式を相続できる創業者一族であったとしても、事業を継続する人物、つまり後継者や代表取締役などの立場でなければ、この制度は適用されないということです。

すなわち、事業承継税制を使用して納税猶予を続けるためには、申告期限後の5年間は、以下の条件を満たす必要があります。

・後継者が会社の代表者であること

・会社が雇用の8割以上を維持していること

・承継者が会社の筆頭株主であること

・会社が上場会社や風俗営業会社に該当しないこと

・承継者が猶予対象株式を継続保有していること

・会社が資産管理会社に該当しないこと

この条件を満たさなくなった場合は、相続税を全額納付する必要があります。

さらに、申告期限後の5年を経過した後でも、以下の条件を続けて満たすことが求められます。

・承継者が猶予対象株式を継続保有していること

・会社が資産管理会社に該当しないこと

これらの条件を満たせなくなった場合、例えば、承継者が株式を譲渡してしまった場合などは、譲渡した割合分だけ相続税を納付する必要が出てきます。また、会社が資産管理会社に該当することとなった場合は、相続税を全額納付する必要があります。

これらのルールは、事業承継税制がその名の通り、事業承継を促進するための制度であり、それを達成するための条件として設けられていることを示しています。

まとめ

非上場株式・少数株式を相続した場合、巨額の相続税がかかることや、非上場株式・少数株式は売却・処分して現金化するのが難しいことをこれまでに見てきました。

仮に、巨額な相続税を支払い非上場会社の少数株式を相続したとしても、その非上場株式・少数株式を保有することから直接生じる利点はほとんど見当たらず、一方で問題となりうる点は数多く存在します。

以上のとおりであり、非上場株式・少数株式は、保有していること自体がリスクであり、早期に売却・処分することが必要なのです。弁護士法人M&A総合法律事務所と一緒に頑張りましょう。