少数株主とは?基本的な考え方と行使できる権利、単独株主権との関係性について
非上場会社・同族会社においては、従業員や関係者に株式を保有させたり、株主の相続に伴って同族に株式が分散したりして、多数の「少数株主」が発生してしまっているケースがあります。
このような少数株主も株主ですので、株主総会において議決権を行使する権利や配当などを受ける権利を持っていますが、少数株主ですので、会社の経営方針に影響を与えることはなかなか容易なことではありません。特に、少数株主は、企業側の一方的な運営によって、不利な状況に置かれることも多くあります。
一方で、少数株主に対して、特に認められている権利があり、それらの権利を行使することで状況を打破できる可能性があります。
会社から不利益に取り扱われていたり、十分な配当を受けられていなかったり、会社が株式の買取を拒否しており、これらの事項にお悩みの少数株主の方は、ぜひ参考にしてください。
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少数株主とは?
少数株主とは、会社の株式の少数のみを保有する株主のことです。
少数株主に対する概念が、大株主です。
多くの非上場会社・同族会社においては、その歴史の中で、従業員や関係者に株式を保有させたり、株主の相続に伴って同族に株式が分散したりして、多数の「少数株主」が発生しているのではないでしょうか。
少数株主が抱えるリスクについて
日本の企業数のうち中小企業が占める割合は9割を超えており、非上場企業も多く存在しています。加えて、同族経営の割合も多く、コーポレートガバナンスが規定されておらず、少数株主が利益を享受できないケースも少なくありません。実際に大株主の影響力が強い企業では、事業で得た利益を同族の役員間でのみ分配するような事例も起きています。
しかし、非上場企業の場合、取引市場での株式の売却ができないため、株式の買い手を見つけることは容易ではありません。株式は放棄できないため、利益を受けられないまま株式を持ち続けるということになります。加えて、株式は相続の対象となるため、現在の株主が亡くなると、配偶者や子などの相続人が相続をしなければなりません。
相続が行われた場合、相続人は相続税の支払い義務が生じることになります。ただし、相続税は相続対象の評価額に応じて金額が計算されるため、少数の株式であっても評価額が高い株式を相続したときは、多額の相続税が課せられてしまいます。
実際に、少数の株式であっても、数億円の相続税が課せられた事例も存在しており、相続人が裁判所に訴えを起こしたようですが認められなかったようです。少数株主には、上記のようなリスクがあるため、損失を防ぐには計画的に対策を講じる必要があります。
少数株主の課題とは
少数株主の権利は強化されていますが、企業とトラブルに発展するケースも多く存在するのが現状です。なかでも、非上場会社の少数株主が抱える課題としては、おもに下記のようなものが挙げられます。
- 正当な配当が受けられない
- 経営に関する影響力がない
- 保有する株式を譲渡・売買する機会の確保
- スクイーズアウトが実施されると株主から排除される可能性がある
非上場企業では、支配株主が利益を独占しており、「少数株主に対する配当がない」もしくは「配当額が非常に少ない」などがよく見られます。
配当に関しては株主総会で決議を行えますが、議決権の少ない少数株主が決議に影響を与えるのは難しいでしょう。
また、少数株主のなかには、「保有する株式を早く手放したい」という方も少なくありません。
しかし、非上場企業の株式は手放す機会が限られているため、譲渡・売却する機会をいかにして確保するかが課題といえます。
少数株主に対する考え方
少数株主としては、以上のような、リスクや課題はありつつも、保有する権利を最大限行使することにより、会社に対して、自分の意思を可及的に反映させてゆく必要があります。
少数株主が保有する権利としては、すべての株主に与えられている株主権として、自益権と共益権があります。自益権は、主として株主総会における議決権であり、少数株主は、株主総会にしっかり出席し、そこで、意見を述べたり、質問を行なったりして、会社の経営を正してゆく必要があります。
また、共益権は、配当請求権と残余財産分配請求権であり、これらは大株主と平等の立場で得ることができるのですが、その共益権を実現するために、自益権を行使する必要もあります。
その他、少数株主には、大株主が専断的な経営を行わないように、少数株主保護のため、会社法上、単独株主権と少数株主権が付与されています。
少数株主としては、株主権としての自益権と共益権を最大限行使しつつ、さらに、これらの単独株主権と少数株主権を有効に行使して、会社に対して、自己の権利の実現を図ってゆく昼用があります。
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少数株主が行使できる権利「株主権(自益権と共益権)」
少数株主を含むすべての株主には、「株主権」として、自益権と共益権が認められており、株主権を行使することで、会社の運営状況の確認や監視を行うことが可能です。
◆自益権…株主が株式を保有する企業から利益を受け取る権利。剰余金配当請求権や残余財産分請求権などがある。
◆共益権…株主が株式を保有する企業の経営に参加する権利。株主総会における議決権の行使などが挙げられる。
特に、自益権のうち剰余金配当請求権などは、株式会社における仕組の根本ともいえるもので、株主の基本的な権利となります。自益権は、少数株主も行使できる権利であるため、配当の要求や、会社の解散時には残っている財産の分配を受けることが可能です。
一方の共益権も、すべての株主に認められている権利であり、株主総会における議決権の行使などです。。
すなわち、少数株主には、「株主総会の特別決議における拒否権」「スクイーズアウト時における裁判所に対する株式売却価格決定申立権」などの行使可能な権利が存在します。
株主総会の特別決議における拒否権とは、株主総会の特別決議で決議された議案を拒否できる権利のことです。
少数株主でも1/3以上の株式を保有していれば、議案の拒否ができます。特別決議の拒否権が行使されると、たとえ賛成の方が多数であっても、議案の承認ができません。
また拒否権付株式を保有している場合であれば、株式の1/3を保有していなくても拒否権の行使が可能です。
また、日本では2015年の会社法制定により、スクイーズアウトが制度的に認められるようになりました。
スクイーズアウトとは、株式売渡請求権や株式併合の方法を使用し、少数株主に金銭などを交付して、保有する株式を強制的に買い取り株主から排除することです。
日本では「締め出し」や「キャッシュアウト」とも呼ばれ、M&Aの際などに少数株主の排除を目的として行われることがあります。
スクイーズアウトが実施されると、少数株主は株主から排除されることになりますが、提示された買取価格が低すぎる場合には、裁判所に株式売却価格決定の申立てが可能です。
ただし、申立てには期間が定められており、少数株主は取得日の20日前から取得日の前日までに、裁判所へ申立てを行わなければなりません。
少数株主は、このように、スクイーズアウトの際に、裁判所に株式売却価格決定の申立てを行い、会社に対して高値での株式の買取を求める権利の行使も可能となります。
また、その他にも、少数株主は、株主が第三者に対する株式譲渡承認を拒否された場合、株主が組織再編等に対して反対し株式買取請求権を行使した場合なども、スクイーズアウトの際と同様に、裁判所に株式売却価格決定の申立てを行い、会社に対して高値での株式の買取を求める権利の行使も可能となります。
また、その他に、単独株主権や少数株主権というものがあり、単独株主権や少数株主権も共益権のひとつであり、単独株主権や少数株主権を行使するには、単独株主権や少数株主権ごとに定められた条件を満たす必要があります。
単独株主権や少数株主権を行使する際に満たすべき条件については、下記を参照ください。
少数株主が行使できる権利「少数株主権」
少数株主には、「少数株主権」が認められており、「少数株主権」を行使することで、会社の運営状況の確認や監視を行うことが可能です。
少数株主権については、下記をご参照ください。
■【株主総会の招集手続きなどに関する検査役選任請求権(会社法306条)】
持分比率議決権割合:1%、権利行使前に必要な保有期間:6カ月。
株主総会の招集手続きなどに疑念があるとき、招集手続きに関する検査役の選任請求を行える権利。
■【業務の執行に関する検査役選任請求権(会社法358条)】
持分比率議決権割合:3%、権利行使前に必要な保有期間:規定なし。
企業の業務において不正行為や法令違反もしくは、定款に違反するような事実が疑われるときに、裁判所に対して検査役の選任を申し立てることができる権利。
■【議題提案権(会社法303条2項)・議案通知請求権(会社法305条)】
持分比率議決権割合:1%もしくは300議決権、権利行使前に必要な保有期間:6カ月。
議題提案権とは、少数株主が株主総会で議題を提案するための権利です。また議案通知請求権は、株主が提出する議案の要領について、招集通知への記載・記録を請求する権利をいいます。
■【会計帳簿閲覧請求権(会社法433条)】
持分比率議決権割合:3%、権利行使前に必要な保有期間:規定なし。
企業における会計書類の閲覧謄写を請求できる権利。対象となる書類としては、総勘定元帳や仕分表などが挙げられます。
■【株主総会招集請求権(会社法297条)】
持分比率議決権割合:3%、権利行使前に必要な保有期間:6カ月。
少数株主が株主総会を招集するための権利。少数株主は株主総会を行う目的、もしくは招集の目的を明示することで、取締役などへ招集の請求ができます。
■【役員解任の訴えの提起(会社法854条)】
持分比率議決権割合:3%、権利行使前に必要な保有期間:6カ月。
株主総会における手続きの不備、取締役の不正行為が発覚した場合などに、役員の解任を求める訴えを提起できる権利。
■【会社解散の訴えの提起(会社法833条)】
持分比率議決権割合:10%、権利行使前に必要な保有期間:6カ月。
会社に自治的能力が認められず、解散させることにやむを得ない事由が認められるとき、会社の解散を請求できる権利。
■【簡易合併などに対する反対権(会社法796条4項)】
持分比率議決権割合:定足数のもとで特別決議権を否決できる議決権を有する株主、権利行使前に必要な保有期間:規定なし。企業における簡易合併などに反対する権利。
少数株主が利用できる少数株主権
株主には、保有する株式がたとえ1株であっても行使できる権利が存在しており、これを「単独株主権」といいます。
少数株主には、「単独株主権」を行使することで、会社の運営状況の確認や監視を行うことが可能です。
単独株主権については、下記の表をご参照ください。
単独株主権 | 根拠法令(会社法) |
定款閲覧謄写請求権 | (31条) |
株主名簿閲覧謄写請求権 | (125条) |
計算書類閲覧謄写請求権 | (442条) |
株務主総会議事録閲覧謄写請求権 | (318条) |
違法行為差止め請求権 | (360条) |
取締役会議事録閲覧謄写請求権
(裁判所の許可が必要) |
(371条) |
株主代表訴訟の提起権 | (847条) |
取締役会招集請求権 | (367条) |
募集新株式発行差止請求権 | (210条) |
株主総会決議取消の訴え提起権 | (831条) |
募集株式の発行の無効の訴え提起権 | (828条) |
少数株主がもつ権利が行使された事例
事業運営から不利益などが生じた場合、少数株主が持ち得る権利が行使された事例も存在します。
他の少数株主がどのような際に訴えているのか把握しておくことで、自身が訴える際の参考にもなるでしょう。下記は、実際に少数株主の権利を行使した事例です。
会計帳簿閲覧謄写請求権が認められた事例
ポーラ化粧品本店の元会長の妻に対して、会計帳簿閲覧謄写請求権が認められた事例です。
元会長の妻は、平成12年に元会長が有していたポーラグループ各社における株式の3/4を相続により取得。その後「グループ会社から他の親族に対して、不当な安値で行われた株式譲渡などについての調査のため」として、東京高裁へ会計帳簿閲覧謄写を請求しました。
しかし原審では「閲覧謄写請求には具体的な理由と裏付ける証拠が必要」とし、「不正が行われた証拠がない」などとして元会長の妻の請求が棄却されています。
その後、元会長の妻は、判決を不服として最高裁判所へ上告を行いました。
最高裁判所は「請求の理由は具体的に記載しなければならないが、理由を基礎づける客観的事実の立証までは不要」と判示。
請求理由に関しても、「具体性に欠けるところはなく、拒絶理由にも該当しない」として、閲覧謄写を認めるべき会計帳簿の範囲を判断させるべく、心理を東京高裁へ差し戻す判決を下しました(平成15年7月1日判決)。
参考資料:新日本法規|「最高裁・ポーラ元会長夫人に勝訴判決!会計帳簿閲覧謄写には理由あり、原審にて閲覧範囲を心理すべし」
株主代表訴訟の提起が認められた事例
東京電力の福島第1原子力発電所の事故を巡り、株主が旧経営陣に対して東京電力へ賠償金を支払うよう求め、代表訴訟を提起した事例です。
訴えを起こした株主らは、取締役としての注意義務違反が事故につながったと主張し、旧経営陣5人に対し計22兆円の賠償金を支払うよう求めました。
この裁判では「政府機関が公表した自身予測に基づき、津波の予測が可能だったか」、「浸水対策で事故を防げたかどうか」などが争点となりました。
東京地裁は東京電力が2008年に地震予測「長期評価」に基づき、福島第1原子力発電所に最大15.7mの津波が到達すると試算していたことなどから、「津波対策を指示すべき取締役としての注意義務を怠った」と指摘。2022年7月13日に旧経営陣4人に対して、計13兆3210億円の支払いを命じました。
なお、支払いを命じられた旧経営陣4人は、判決を不服として控訴しています。
参考資料:日本経済新聞|「東電旧経営陣4人、原発事故で13兆円賠償命令 最高額か」
まとめ
少数株主も株主であるため、会社の経営に参加する権利などを有していますが、保有する株式が少ないことから抱える課題も多い現状です。
特に、非上場企業の少数株主では、会社側の一方的な運営により、不利益を被るケースも少なくありません。
しかし、少数株主には、大株主と同様に株主権として自益権と共益権が与えられており、また、少数株主の利益を保護するための単独株主権と少数株主権が認められています。
少数株主であっても、これらの権利を行使することで、問題を解決できる可能性があります。
とはいえ、議決権に与える影響が少ない少数株主の方が、自力で問題の解決にあたるのは容易ではありません。
問題の解決が難しいと感じたときは、弁護士などの専門家に相談してみましょう。専門家のサポートを受けることで、早期解決にも期待できます。