非上場株式・少数株式の株式価格評価における純資産方式の採用!

非上場株式・少数株式の株式価格評価における純資産方式の採用

非上場株式・少数株式の株式価値評価において、純資産方式(簿価純資産方式・修正簿価純資産方式・時価純資産方式)を採用することについては、しばしば、会社は継続企業なのであるから、すぐに清算することを予定しているわけではないことから、採用すべきではないと主張する方がいます。

純資産方式は、一般の我々には非常に理解しやすい株式価値評価方式であり、決算書の貸借対照表を見さえすればおおむね理解することができることなどから、非常に納得感のある株式価値算定方式であるにも拘らず、採用してはいけないのでしょうか。

⇒非上場株式・譲渡制限株式・少数株式でお困りの方はこちら!

ふつうは純資産方式よりも収益還元方式の株式価格評価の方が株価が高く算定される

この点、現代における、普通の会社であれば、純資産方式による株価よりも、収益還元方式による株価の方が、高く算定されるため、継続企業であるから収益還元方式で株価を算定しますと言って、特段問題は発生しません。

確かに、株式会社とは、資金を投資した出資者に、利益を還元する投資スキームであるという、株式会社の原点に立ち戻れば、株式会社とは、現在および将来において収益を稼いて出資者に配分するのであり、今後の収益のみを考えればよく、継続企業としては、収益還元方式さえ検討していればよいものと思われます。

また、ふつうは、株式会社は企業業績は右肩上がりであり、山を越えた右肩下がりの株式会社は廃業・清算されるべきものであり、株式会社は、現在又は近年の収益が最も良好であることが制度趣旨に沿っています。

ですので、純資産方式による株価ではなく、収益還元方式による株価の方が高く出ることが自然のはずです。

しかし、特に、過去、株式会社の制度趣旨に反して、収益を十分配当することなく、過大に内部留保してきた会社や、そうでなくとも業歴が長く、結果として、過大に内部留保されている会社については、純資産方式による株価のほうが、収益還元方式による株価よりも、非常に高くなるという逆転現象が、近時の事業承継を控えた会社などで続出しているのです。

しかし、そのような会社において、非常に過大な内部留保がなされているにも拘らず、継続企業であるからと言って、その現預金を評価することなく、現在および将来の収益のみを評価する収益還元方式による株価のみが正確だということでよいのでしょうか。

また、純資産方式による株価の方が、収益還元方式による株価よりも高いということは、事業継続するよりも、事業廃業する方が、手取りが多くなるということである状況である以上、経営陣が事業廃業するという意思決定しさえすれば実現するその純資産方式による株価を否定し、事業は継続すると強弁し、継続企業価値である収益還元方式による株価を押し付けることが正しいのでしょうか。

純資産価格は非上場株式・少数株式の株式価格評価の最低限を画するものであること

この点、純資産方式(簿価純資産方式・修正簿価純資産方式・時価純資産方式)に基づく株式価値は、すなわち、継続企業の事業資産を直ちに解体・処分し、加えて非事業用資産を処分したとすれば得られる対価(解体価値)は、理論的に、継続企業における株式価値の最低限を画するものと考えられている(江頭憲治郎教授『株式会社法第7版』19-20頁(有斐閣・2017年)、岩原紳作ほか編『会社法判例百選(第3版)』43頁(有斐閣・2016年))との指摘があります。

また、裁判例においても、修正簿価純資産法による算定結果を「下支え」とした平成28年9月14日東京高決(判例タイムス1433号134頁)や、時価純資産法について「評価の下限としての意味を有する」とした平成22年5月24日東京高決(金融商事判例1345号12頁)、解体価値が最下限を画するとした平成元年3月28日大阪高等裁判所決定(判例タイムス712号229頁)などが挙げられます。

継続企業であっても、清算価値としてそれなりの多額の価値を内包している以上、純資産方式に基づく株価評価よりも低く評価することは、やはり許されないのでしょう。

また、日本公認会計士協会の「株式等鑑定マニュアル」(日本公認会計士協会「株式等鑑定マニュアルQ&A」)においても、過去に蓄積した利益に比して、現在または将来の見込み利益が少ない場合には、コスト・アプローチである純資産方式が適用されることが多いものとされています。

すなわち、そのような場合においてまで、収益還元法などにより現在または将来の見込み利益のみで非上場株式・少数株式の株式価値を評価するのでは、過去に再投資も配当もされないまま蓄積された会社の利益を非上場株式・少数株式の株式価値に反映できず、適正な株式価値が算定できないと考えているのでしょう。

やはり、純資産方式による株価が高くなるような会社は、そのようになっている以上、過去の収益を大量に内部留保した結果であるということでき、その点も価値を有するものと評価せざるを得ませんので、純資産方式による株価は、非上場株式・少数株式の株式価値の最低限を画するものと評価し、収益還元法よりも純資産方式による株価の方が高く算定される場合はそれをも考慮する必要がありそうです。

⇒非上場株式・譲渡制限株式・少数株式でお困りの方はこちら!