株式買取請求権を行使できない失敗パターンについて!
株式買取請求権を行使する際は会社に買取の意思表示をするだけでは足りません。株式買取請求権には他にも反対通知や2回の反対といった行使のルールが定められているのです。
株式買取請求権のルールを理解していなかったために、手続きに失敗するケースが見受けられます。特に少数株式の場合は株式が塩漬けになるリスクもあるため注意が必要です。
非上場株式問題に精通する弁護士が株式買取請求権の失敗パターンや失敗時のリスクなどを解説します。
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株式買取請求権とは?
株式買取請求権とは「株主が会社に対して株式を買い取るよう請求する権利」のことです。
本来、株主は会社に「株式を買ってください」と請求する権利は持っていません。株式が不要なら市場で売却するのが原則です。株式買取請求が常に可能だと、株主の都合によって会社に株式買取を迫るようなケースが出てきます。ただ、会社が根底から変わってしまうようなケースでは例外的に株式買取請求権の行使が許されているのです。
会社が根底から変わってしまうわけですから、株主は「こんな会社の株式はいらなかった」「会社が根底から変わるなんて予想していなかった」と思うことでしょう。会社が根底から変わるような行為には例外的に「想定外だった」「会社が変わってしまうならもう株式はいらない」と考える株主は行為に反対した上で株式買取請求権の行使が可能なのです。
たとえば会社が組織再編をしようとしていたとします。株主Aは組織再編に反対でした。現に通知し、反対もしました。いかし、組織再編が正式に決まってしまいました。株主Aは会社に株式を買い取ってもらうことで株主をやめようと思いました。このようなケースにおいて株主Aは会社に公正な価格での株式買取請求権を行使できます。
株式買取請求権の行使可能なケースや流れ
株式買取請求権はどのような場合でも自由に行使できるわけではありません。株式買取請求権には方法とルールが定められています。
株式買取請求権を使えるケースと行使時のルールや流れについて説明します。
株式買取請求権の行使可能なケース
株式買取請求権を行使できるのは以下のようなケースで株主が会社に反対している場合です。
- 株式譲渡制限の定款変更をするとき(116条)
- 株式の無償割り当てをするとき(116条)
- 株式を引き受ける人を募集するとき(116条)
- スクイーズアウト株式併合(182条)
- 事業譲渡や重要子会社の売却(469条)
- 合併や会社分割、株式移転、株式交換(785条、797条、806条)
会社に反対する際は反対意見を持っているだけでは足りません。株主総会で反対票を投じるなど、実際に会社に対して反対の意を示していなければならないのです。
株式買取請求権の行使が可能な場面でも実務的なポイントを欠くと株式買取請求の失敗につながります。実務上のポイントに留意し、失敗しないよう努めるべきです。
株式買取請求権のよくある失敗については別の見出しで解説します。
株式買取請求権の流れ
株式買取請求の基本的な流れは次の通りです。
- 株主が会社に反対の旨を通知し、かつ、株主総会で反対する
- 株式会社が効力発生日の20日前までに株主へ通知または公告
- 効力発生日の20日前から前日までに株式買取請求権を行使する
- 株式買取請求権の対象になる株式の株券を提出する
- 会社と株主との間で公正な株式の価格について話し合う
- 価格が決まれば買取へ。決まらない場合は裁判所に申し立てて決定
以上が株主買取請求権を行使する際の基本的な流れです。
基本的な流れだけを見ると株式買取請求権の行使は簡単だと思うかもしれません。すでにお話ししましたが株式買取請求権には実務的なポイントがあります。ポイントに留意せず会社に株式買取請求をすると失敗するのです。
実務で致命的な失敗をすると株式を買い取ってもらえない可能性があります。買ってもらえたとしても公正な金額での買取にはならないケースがほとんどです。株式買取請求権行使の際は注意してください。
株式買取請求権のよくある失敗パターン
株式買取請求権の行使は実務のポイントに留意しなければ失敗しがちであるとお話ししました。実務のどのようなポイントを欠いて失敗しがちなのか、失敗パターンを具体的に取り上げながら説明します。
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失敗例①事前の反対通知を送っていなかった
株式買取請求権を行使するためには株主総会で反対票に投じるだけでなく、先立って反対通知を送らなければいけません。つまり、会社の該当行為に対して株主総会に先立つ事前通知と株主総会で合計2回反対しなければならないのです。
株主総会で反対票に投じても事前通知が欠けていると株式買取請求権は行使できません。株式総会に先立つ事前通知は多くの人が非常に忘れやすいポイントなので特に注意が必要です。
また、株主総会で反対票に投じるときは、実際に反対票に入れたという証拠を残しておくことが重要になります。後から「本当に反対票に入れたのか」と疑われ、買取請求が失敗する可能性があるからです。
反対票に投じたことをビデオなどで明確な証拠として残しておきましょう。会社から確かに反対したという証明をもらっておく方法もあります。
なお、会社の該当行為に反対だからといって株主総会に出席せず反対を表明していただけでは株式買取請求権の行使はできません。実際に事前通知や株主総会で反対することが重要なので、外野で「反対」と主張しているだけでは失敗するどころか権利行使自体ができませんので注意してください。
失敗例②委任状は送ったが反対通知は送らなかった
委任状に「反対」と書いておけば事前通知の代わりになると思うかもしれません。委任状に反対と書いても事前通知と株主総会の2回の反対にカウントされないケースがあります。なぜなら、委任状に反対と書いても実際は賛成に入れるかもしれないからです。
安全策をとるなら、委任状とは別に事前通知をした方が安心です。事前通知は記録が残る内容証明郵便で行いましょう。
仮に委任状に反対と書いて事前通知をしなかった場合は、急いで株式買取請求権に通じた弁護士に相談してください。問題を解決できる可能性があります。
失敗例③株式買取請求通知書を期限までに送らなかった
株式買取請求権の行使は期限が短いという特徴があります。そのため、権利行使をしようにも期限まで株式買取請求通知書を送れず失敗するケースがあるのです。
株式買取請求権を行使する際は株主総会に株式買取請求通知書を持参し、その場ですぐに買取請求権を行使するのが基本です。株主総会で反対に投票して(2回目の反対をして)即座に株式買取請求通知書を提出します。期限と提出のタイミングに注意してください。
また、中には株式買取請求権の行使が非常に慌ただしくなるケースもあります。株主総会で定款変更を行うケースです。株主総会終了と同時に定款変更の効力が発生する場合、株主総会終了後に帰宅し、あらためて株式買取請求通知書を準備するような余裕はありません。法律の不備だと言えるでしょう。
株式買取請求通知書の提出期限は非常に短いため、期限とタイミングを逃すことで株式買取請求を失敗するのもよくあるパターンです。
なお、株式買取請求通知書と事前通知は違います。事前通知をして株式買取請求通知書も提出しなければならないため、間違えないようにしてください。事前通知をして株主総会で反対票を投じても、株式買取請求通知書を提出していないと権利行使はできないのです。
失敗例④裁判所への株式買取価格決定申立を期限までに行わなかった
会社に株式買取請求をしたら不当に低い買取金額を提示されることがあります。会社と株主の間で買取金額の話がまとまらなければ裁判所の判断を仰ぐことになります。
裁判所が株式の買取金額を決める場合は公正な価格になりますので、会社が提示するほど低い額にならないのが一般的です。ただ、裁判所の株式買取価格決定申立には条件があります。ふたつの条件を守っていないと裁判所への株価決定申立ができないため、株式買取請求は納得できないかたちで終わってしまいます。
裁判所に株式買取価格決定申立の一つ目の条件は「事前通知などをしっかり行っていること」です。
事前通知を欠いている等、条件を満たしていない場合は裁判所への株価決定申立はできません。仮に条件を満たしていても事前通知や反対票に投じたことを証明できなければ「本当に条件を満たしているのか」と会社側とトラブルになる可能性もあります。条件を満たすだけでなく、事前通知などを確かに行ったことを証明できるよう準備しておくことが重要です。
もうひとつの条件は「株式買取価格決定申立を期限まで行うこと」になります。
株式買取請求権では、株式価格の話し合いが効力発生日から30日以内にまとまらない場合は期間満了後の30日以内に裁判所へ価格決定の申立をすることになっています。申立の期限を間違えてしまうと裁判所での価格決定ができないのです。会社側から不当に低い株式買取金額を提示されても、泣く泣く承諾するしかありません。
株式買取価格決定申立は準備に時間がかかるという特徴もあります。期限間際に弁護士へ相談しても準備が間に合わない可能性もあるのです。準備が難しい申立だと理解し、早めに準備を進めると共に余裕を持って弁護士に相談しておく必要があります。
裁判所に株式買取価格決定の申立を期間内にしなかったなど、条件を守れずに株式買取請求を失敗するパターンもよくあるため注意してください。
失敗例⑤会社から通知がなかったため株式買取請求権行使の機会を逃した
会社は株式買取請求権について株主に通知するルールがあります。しかしながら実務において「やりました」と言っていながらやっていない会社や、通知自体を忘れている会社が少なくありません。
会社が通知しなかったために株式買取請求権の行使ができないケースが散見されますが、これは明らかに会社側のルール違反です。株主買取請求権について会社側が通知しないのは法律違反になります。株主側が「失敗した」と株式買取請求権の行使を諦める必要はありません。
会社側の通知忘れや、通知していないのに「した」とウソをついている場合は期限を過ぎていても株式買取請求権を行使できる可能性があります。急ぎ弁護士に相談してください。
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株式買取請求権の実務で注意すべきポイント
よくある失敗パターンをもとに株式買取請求権の行使で留意すべき実務のポイントをまとめました。
- 株式買取請求権を行使する際は株式総会の前に事前通知を送る
- 株式買取請求権を行使するときは事前通知と株主総会で2回反対
- 株式総会で反対票を投じたことを証拠に残す
- 委任状に「反対」と書いただけでは2回の反対にカウントされない可能性がある
- 株式買取請求権の権利行使期限は短いため注意する
- 株主総会で反対票を投じて即座に株式買取請求通知書を提出する
- 株式買取価格決定申立の期限などの条件を満たしているか注意する
- 株式買取価格決定申立の準備は難しく時間がかかるため早めに弁護士に相談して準備へ着手する
- 会社が株式買取請求権の通知をしないのは違法。通知がなかった場合は期限後にも買取請求できる可能性あり
あくまでこれはよくある失敗パターンの留意点です。この他にも株式買取請求権を行使できると知らず見逃してしまうケースなどがあります。
株式買取請求権の行使失敗によるリスク
株式買取請求権の行使に失敗すると「株式が塩漬けになる」というリスクがあります。
売るに売れず、持っているしかない株式が塩漬け株式です。株式買取請求権の行使に失敗して株式を買い取ってもらえないと、損失や売却の難しさなどから株式を手放したくても手放せない状態になってしまいます。
株式買取請求権の行使が可能なときは、ただ放置するだけの株式にならないよう、機会を逃さず手続きすることが重要です。ミスがないように、株式買取請求権の行使は確実かつ慎重に弁護士と相談して進めてください
最後に
株式買取請求権の行使と失敗パターンについて説明しました。
株式買取請求権の流れは簡単そうに見えますが実務面での留意点が多いため注意が必要です。2回の反対や手続きのタイミングミスなどにより株式買取請求を失敗する可能性があります。
所有している株式が塩漬けになってしまうことを防ぐためにも、株式買取請求権の行使は失敗しないように、かつ慎重に進めましょう。