株主の地位の確認方法!

非公開株式は保有の実態を自覚しづらく、自分が株主だと確認できるような客観的手段に苦慮しがちです。設立時期の古い会社を中心に「名義貸し株」も存在し、実質的に株主であるにもかかわらず地位が保障されていないケースも少なからず見られます。

株主の地位の明確化は、株式譲渡や承継において避けて通れません。

本記事を活用することで、自分自身または取引相手・被相続人の株主としての地位を確かめるための方法を再確認できます。

株主とは

そもそも株主とは、ある会社の株式を保有する個人または法人を指します。

株主はまさに「会社を分割して所有する人物」であり、会社の重要な変更や経営方針に意見を述べる権利(=議決権)・利益または残余財産から配当を受ける権利が与えられています。

⇒非上場株式・譲渡制限株式・少数株式を売却できずにお困りの方はこちら!

株を保有する目的

したがって、取引や事業承継によって株主となる目的は、会社の経営に参加して利潤を追求することにあります。

そして、会社経営の状況は刻一刻と変化するものでもあります。万が一「取得したつもりの株式に実態がなく経営に参加する時期を逃した」という事態が発生してしまった場合、潜在的に被った損害は計り知れないでしょう。

以上のことから、取引や相続によって株の移転を行う際は、もとの株主の地位が確かか(=対象会社の株主として権利の実態があるか)を客観的方法で証明しておくことが好まれます。

株主であることの確認方法

株主であることを確認あるいは証明する方法として、以下①~⑦の手段が考えられます。

はじめに最も確実性の高い手段を述べておくと、株式発行会社であれば①株券と②株式名簿の両方を確認し、株式不発行会社であれば②株式名簿のみを確認する方法です。

株券

自分で株主だと確信している人がその地位を確かめる上で、発行された株券を持っているかどうかを調べるのは有効な方法です。ただし、株券発行会社と株券不発行会社が混在し、後者が主流となりつつある現状、確実な方法とは到底言えません。

そもそも株券の発行が原則とされていたのは、平成18年の会社法施行以前に設立された会社のみです。現行の会社法では株券不発行が原則であり、定款で定めた場合にのみ株券発行会社となれます。

したがって、株券の有無で地位を確認する以前に、対象会社の株券発行有無をまず調べなければなりません。

株券発行会社か調べる方法

株券発行会社かどうかは、その会社の商業登記簿謄本を見れば分かります。謄本にある「株券を発行する旨の定め」欄を確認しましょう。

株主名簿

「株主名簿」の閲覧は、株主としての地位を確認する最も確実な方法です。

株主名簿とは、対象会社において以下項目記載の上で保管し、株主であればいつでもその閲覧・謄写の請求が出来ると会社法で定められた名簿です(121条・125条2項)。

【株主名簿の記載内容(会社法121条)】

  • 株主の氏名または名称及び住所
  • その株主の有する株式数※
  • その株主の株式取得日
  • (株式会社が株券発行会社である場合)株券番号

※種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数

以上のように株券番号の記載があるため、株主の地位を証するものとして提示された株券の真偽を確かめる手段としても活用できるでしょう。

問題点:そもそも株式名簿が作成されていない場合あり

中小規模かつ非上場企業には、実のところ「株主名簿の管理がおざなりになっている」という会社が多く存在します。全く名簿作成が行われていなかったり、事業承継の際に新株主の記載が行われていなかったりするのです。

このような場合、株主から会社へと株主名簿の作成を促し、作成が完了したところで閲覧・謄写請求をするのも一つの手です。ただしある程度時間がかかることは覚悟するべきでしょう。

自分自身あるいは譲渡者・被相続人が株主であることに疑義の余地がないなら、③以降の別の手段で証明し、取引ないし承継を急ぐ道も考えられます。

株式譲渡契約書

3番目の地位確認方法として、株主となった際の「株式譲渡契約書」が考えられます。

地位の真正を証明する能力が高いのは、原始定款及び原始定款記載の株主からの株式譲渡契約書です。

原始定款とは会社設立時に作成された定款であり、設立当時の出資者の名前は定款とともに公証役場で記録されています。つまり「設立当初の出資者から株式譲渡を受けたときの契約書であれば、公正に保管された会社側の資料(=原始定款)を通じて株式譲渡の履歴をトレースできるため、その信頼性が高まる」という考え方です。

問題点:定款変更から20年以上経っていると確認不可

ただし、原始定款の保管期限は20年(公証人法施行規則第27条)です。設立時期が古く定款に変更が加えられてから相当年数が経っていると、株式譲渡契約書に記載された譲渡人を会社側の資料と突き合わせることは出来ません。

株主かどうか確信がもてないなら、やはり別の確認方法も検討しなければならないでしょう。

同族会社等の判定に関する明細書

会社が法人税申告に際して提出する書類に「同族会社等の判定に関する明細書」があります。ここには株主の記載をもって地位の証明とする考え方も出来るでしょう。

しかし、この方法には根本的な問題があります。

問題点:合理的根拠にはなり得ない

本明細書はあくまでも「筆頭株主グループの関係」に着目するものであり、少数株主は記載が省かれることが多々あります。名簿を確認せず税申告のためにざっくりと記載されていることも多く、株主かどうかを証する合理的根拠になるとは言えません。

株主総会招集通知

重要な決議を取る際に株主全員へ送付される「株主総会招集通知」をもって地位確認できるという考え方もあります。

問題点:地位確認の手段として確実性がない

これもやはり、④の明細書同様に合理的根拠になるとは言えません。

会社法上は招集通知に宛名(=株主の氏名及び名称)を書く義務がなく、ダイレクトメールのように「株主各位」とだけ記して送られていることがあります。

誰に送られたものかが分からず「ただ招集通知を持っているだけ」という状況では、その書類と株主地位を主張する人を結び付けようがなく、結局のところ証明にはなりえません、

その他の方法

他にも株主地位を確認または証明する方法として、以下のようなものが考えられます。

・「配当金に関する源泉徴収票」を確認する

…支払い者欄に書かれた対象会社名をもって株主地位の確認とすることが出来る

・表明保証条項を用いる

…譲渡契約書に「表明及び保証」の条項を設けて株主地位を表明し、表明した内容が事実と異なっていた場合のペナルティを明確に定めておく

⇒非上場株式・譲渡制限株式・少数株式を売却できずにお困りの方はこちら!

会社が株主だと認めない場合はどうすれば良いか

株式を移転させたり株主としての権利を行使したりする上で、対象会社が株主をそうと認めない場合があります。そんなときは、会社の本店所在地の裁判所で「株主権確認請求訴訟」を提起することで、裁判所に地位判断をゆだねることが出来ます。

当該事態に陥る具体的状況としては、以下のようなものが考えられるでしょう。

【具体例】客観的書類の内容に疑義があるor散逸しているケース

・名義貸し株

…親族や知人の名義で株を購入していたケース

・客観的書類の散逸・廃棄

…株式名簿がきちんと作成・更新されていなかったり、設立メンバーの株式引受書が廃棄されていたりするケース

株主権確認請求訴訟での判断基準

株主権確認請求訴訟では、株主の地位を客観的に示すものとして、下記事実が判断材料となります。

【株主権確認請求訴訟での判断基準】

  • 株主総会における議決権の行使状況
  • 利益配当金の受取り状況
  • 株式取得資金の実際の拠出状況

参考:東京地裁昭和57年3月30日判決

以上の事実確認は株主の提出した書証(前章①~⑥等)がもととなります。

地位確認できる書類を収集しておけば、株式の取引相手との間で信頼関係を結ぶというだけでなく、会社との万一のトラブルに備えられるとも言えるでしょう。

まとめ

株式の譲渡または承継にあたっては、移転手続きに信頼性を持たせて新しい株主がスムーズに会社経営へと参画できるよう、元の株主の地位を客観的書類で確認しておかなければなりません。

地位を確かめる方法として最も確実なのは「株主名簿」(株券発行会社であれば+株券)ですが、会社側で作成・保管がおざなりにされている可能性は否めません。

確実な地位証明ができない場合や、株主であることに明確な確信がない場合は、一度専門家に今後の方針を相談してみるのも一つの手です。

⇒非上場株式・譲渡制限株式・少数株式を売却できずにお困りの方はこちら!

前の記事
少数株主の会計帳簿閲覧請求権