株式買取請求の反対通知は委任状ではダメ?!

株式買取請求権を行使する際の「反対通知」は、株主総会招集通知に同封されている「委任状」の反対のところに〇をして会社に送付するだけでは、反対株主株式買取請求権の要件を満たさないというのは本当ですか?

ここには大きな議論があります。

反対株主株式買取請求権の行使には、いろいろな論点があり、専門家のサポートが必要です。以下この「反対通知(株式買取請求権)は反対委任状ではダメ?!」の論点について解説します。

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前提として、反対株主株式買取請求権を行使するためには「2回の反対」が必要!!

前提として、そもそも、反対株主株式買取請求権には「2回の反対」が必要ですが、まさか忘れていませんか?

すなわち、少数株主は、①株主総会に先立って反対を通知しつつ、②株主総会でも反対の議決権を行使する必要があります。

少数株主が「2回の反対」がないのに株式買取請求権を行使したとしても、会社からは株式の買取に応じてもらえませんし、もし応じてもらえたとしても、それは「任意の買取」であり、法定の株式買取請求権の行使ではありませんので、裁判所に対して株式買取価格の決定申立を行うことができません。

また、「任意の買取」の際に使用される株式価値評価の方法と、株式買取請求権の際に使用される株式価値評価の方法は、大きく異なり、もちろん、株式買取請求権の際に使用される株式価値評価の方法の方が、圧倒的に高額になります。

このように少数株主が反対株主株式買取請求権を行使するためには、「2回の反対」が必要なのですが、この「2回の反対」をしなかったばっかりに、会社から株式の買取に応じてもらえないケースが続発していますし、裁判所に対して株式買取価格の決定申立を行うことができなくなってしまったケーズが続発しています。

株主総会に先立つ「反対通知」とは?

ここで、株式買取請求権を行使する際の「反対通知」は、株主総会招集通知に同封されている「委任状」の反対のところに〇をして会社に送付するだけでは、反対株主株式買取請求権の要件を満たさない、という議論があります。

株主総会招集通知に同封されている「委任状」の反対のところに〇をして会社に送付するだけでは、株主総会に先立って本件定款変更に反対する旨の通知(「事前の反対通知」)をしておらず、会社法116条1項柱書の「反対株主」にはあたらない(同条2項1号イ〉から、反対株主株式買取請求権の行使としては有効ではなく、同項1号に基づく株式買取請求権を行使することはできないと言われてしまうのです。

東京大学の江頭教授や会社法の大家である鈴木竹雄教授も委任状は「反対通知」にならないと言っている!

この点、裁判所の判例はないのですが、東京大学の江頭教授や会社法の大家である鈴木竹雄教授も委任状は「反対通知」にならないと言っており、この江頭教授や鈴木竹雄教授より権威のある教授先生は存在しないことや、裁判所の裁判官もこの江頭教授や鈴木竹雄教授には頭が上がらないことから、裁判に訴えたとしても、委任状は「反対通知」にならない、と判断されてしまう可能性が高いということで、会社としても、委任状は「反対通知」にならないとして、反対株主株式買取請求権の行使を認めないことが多くなっています。会社としても、裁判に訴えられたとしても、委任状は「反対通知」にならない、と考える傾向にあります。

それだけ江頭教授や鈴木竹雄教授は、会社法の世界で権威があるのです。

また、日経新聞で毎年のように「最も依頼したい弁護士」としてランクインする中村直人弁護士も、委任状は「反対通知」にならないと言っているのです。

その論拠としては、以下のような論拠です。

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委任用では確定的な反対意思の通知とはいえないとのことです!

すなわち、株式買取請求権を行使できる反対株主の条件として、会社に対する事前の反対通知が要求される(会社法116条2項1号イ前段)趣旨は、会社が株主総会の開催以前に、どの程度の株式につき株式買取請求権がなされる可能性が高いのかを認識できるようにし、議案提出前に再考する機会を与えることにある(江頭憲治郎「株式会社法 第7版」844頁参照)とされている。

そして、会社にそのような機会が十分に与えられるためには、会社において、反対株主の保有する株式につき、株主総会での反対の議決権の行使が高度の蓋然性をもって予測されることが必要であるとのことである。

したがって、反対株主の条件としての事前の反対通知は、株主総会で反対の議決権を行使することについての確定的な意思の通知でなければならない、しかし、反対株主が、反対の表示をした委任状を会社に送付したとしても、委任状で指名された受任者が委任者の意向に従って議決権を行使することを受任するか否かは受任者が自由に判断できる(中村直人「株主総会ハンドブック 第4版」326頁)のであるから、委任状での「反対通知」は、受任者を名宛人とした受任者への指示の表示をしたに過ぎないと評価することができるという。

そして、受任者から、会社に対し、受任者が委任者の代理人として株主総会に出席すること及び株主総会において議案に反対の議決権を行使することの明示の通知が行われない限り株主総会で反対の議決権が行使されるのか否かは不確定であるとのことである。

そうであれば、株主総会での反対の議決権の行使を高度の蓋然性をもって予測することは困難であり、反対株主株式買取請求権の行使に事前の「反対通知」を要件とした趣旨を全うできないという。

したがって、反対株主が、議案に反対の表示をした委任状を会社に送付したとしても、反対株主による、株主総会で反対の議決権を行使することについての確定的な意思の通知とはいえないことから、会社法116条2項1号イ前段に定める事前の反対通知にはあたらない(江頭憲治郎「株式会社法 第7版」845頁、柳明昌「会社法コンメンタール 第3巻」204頁及び同「会社法コンメンタール 第12巻」107頁)ということです。

委任状は「反対通知」として有効である!

しかし、江頭憲治郎「株式会社法第7版」845頁には、委任状は「反対通知」にならないとする論拠が十分に書かれておらず、これが引用する上柳克郎「合併」石井照久ら編「経営法学全集第2企業形態」ダイヤモンド社253頁も、委任状は「反対通知」にならないとする論拠が十分に書かれていないため、これが最終引用している鈴木竹雄ほか「株式会社の合併」有斐閣128頁)を参照する必要があり、それを見ると、なんと!、鈴木竹雄教授は、要するに、委任状の「意思解釈」を行って委任状は「反対通知」にならないと解説していたのである。

また、委任状は「反対通知」にならないとする竹内昭夫「会社法の理論Ⅱ総論・株式・機関・合併」有斐閣337頁も、要するに、委任状の「意思解釈」を行っているのです。

すなわち、委任状は「反対通知」にならないとする江頭教授や鈴木竹雄教授の論証の本質は、委任状の「意思解釈」なのであり、そうであれば、江頭教授や鈴木竹雄教授の論拠に従って考えると、委任状と題する書面を含めた「意思解釈」を行う必要があるのであり、江頭教授や鈴木竹雄教授は、委任状だから「反対通知」とは認められないなどという画一的議論を行っているわけではないことが分かるのです。

すなわち、江頭教授や鈴木竹雄教授の論拠に従ったとしても、委任状と題する書面を含めた「意思解釈」を行った場合、委任状と題する書面が「反対通知」に該当する可能性は十分にあるのであり、むしろ、委任状は「反対通知」として有効であるとされることの方が多いものと思われます。

結論

すなわち、株式買取請求権を行使する際の「反対通知」は、株主総会招集通知に同封されている「委任状」の反対のところに〇をして会社に送付するだけでも、反対株主株式買取請求権の行使として有効である可能性は十分ありますし、弁護士法人M&A総合法律事務所はこの論点に慣れていますので、不安がらずに、勇気をもって、会社に対して、反対株主株式買取請求権を行使していただきたいと思います。

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