非上場株式の配当金とデメリット(最高税率55%)と留意点(自己株買いも最高税率55%)
非上場株式の配当金を出すかどうか、第三者の株主から要求を受けて、改めて考える非上場企業のオーナーもいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、非上場株式の配当金は税率が高く損益通算上の不利益がある点、また、非上場株式の配当と役員報酬それぞれの特徴を挙げ、非上場企業が出すならどちらがよいのかを解説します。また、非上場企業が事業承継をするうえで知っておきたい留意点である「みなし配当課税」についても説明します。
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非上場株式の配当金にかかる税金は最高税率で55%
非上場企業の配当金には、どのくらいの税金がかかるのでしょうか。上場株式の配当金では20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が源泉徴収されるため、非上場株式でも同じだろうと思っていませんか。
しかし、非上場株式には上場株式と異なり、次の特徴があります。
- 総合課税(※少額配当の場合のみ、申告不要制度も選択可)
- 所得税率15〜45%+住民税10%が課税(最大税率55%)
- 確定申告が必要
非上場株式の配当金は、一律20.315%の上場株式とは異なり、最高税率で55%もの税金がかかるケースもあるのです。その理由は「総合課税」にあります。総合課税とは、全ての所得を合わせた総所得金額によって、課税される税率が決まる方式です。
非上場株式の配当金は、いったん所得税20.42%が源泉徴収されますが、それで終わりではありません。配当をもらうと確定申告の義務があり、申告後にほかの所得と合算された総所得金額によって決まった税率で、所得税15〜45%+住民税10%が課税されます(所得税率が20.42%を下回る場合は、源泉徴収され過ぎた分が還付されます)。
総所得金額 | 税率 |
〜195万円未満 | 5% |
195万円〜 | 10% |
330万円〜 | 20% |
695万円〜 | 23% |
900万円〜 | 33% |
1,800万円〜 | 40% |
4,000万円〜 | 45% |
つまり、非上場株式の配当金は総所得金額が4,000万以上の人の場合、何と55%(所得税45%+住民税10%)もの税金がかかってしまうのです。
なお、非上場株式では「少額配当」(支払い1回分の金額が「10万円×配当計算期間月数÷12」以下)の場合は、源泉徴収のみで確定申告が不要な「申告不要制度」も選べます。しかし、住民税は支払う必要があるため、結局は確定申告が必要です。
加えて、非上場株式には次のような特徴があり、上場株式と比べると税金面で不利な点があります。
- 非上場株式の配当金は、上場株式と非上場株式、どちらの売却損とも相殺できない
- 非上場株式の売却損は、上場株式の売却損や配当金と相殺できない
- 非上場株式の売却損は、(上場株式なら可能な)3年間の繰り越しができない
上場株式の配当金にかかる税率は原則20.315%
非上場株式と比較できるよう、上場株式の配当金における特徴もまとめておきます。
- 申告不要制度(源泉徴収で終了)・総合課税・申告分離課税の3つから選択
- 税率は、基本的には20.315%(所得税率15.315%+住民税5%)で一定
- 申告不要制度なら確定申告は不要
上場株式の配当金は、申告不要制度など上記3つから納税方法が選べます。申告不要制度か申告分離課税を選んだ場合、どんなに総所得金額が高くても税率は20.315%(所得税15.315%+住民税5%)で一定です。
非上場株式では、高所得者は総合課税のために税率が高くなりますが、上場株式では逆に、低所得のため所得税率が15.315%より低くなりそうな場合に、総合課税(所得税は累進税率+住民税10%)を選んで税率を低くするという方法を取ることも可能です。
非上場企業が出すなら、非上場株式の配当と役員報酬、どちらがよいか?
非上場株式の配当金は総合課税のため、上場株式と比べると高所得者は税率が高くなる点について解説しました。
次に、非上場株式の配当と役員報酬ですが、どちらも総合課税のため、もらった個人の所得税率が高くなる傾向がある点では条件は同じです。それでは、非上場企業が出すとしたら、非上場株式の配当と役員報酬のどちらがよいのでしょうか。それぞれの良い点を解説し、どちらがよいかを考えていきます。
役員報酬の方が良い点
- 損金(経費)として計上できるため、法人税を減らすことができる
- 配当のように、支払いたくない株主に支払う必要がない
配当の方が良い点
- 期末でも自由に金額を決められる
- 配当には社会保険料がかからない
- 配当控除がある
役員報酬の方が良い点1:損金として計上でき、法人税を減らせる
役員報酬は損金(経費)として計上できるため、出した分だけ法人税を減らすことができます。これに対して、配当は損金計上ができないため法人税は減らせません。そのため、役員報酬と配当を比べると、節税面では役員報酬に大きなメリットがあります。
役員報酬の方が良い点2:配当のように、支払いたくない株主に支払う必要がない
配当は株主平等のため、利益を還元したくない株主にも支払わなければならないというデメリットがあります。一方、役員報酬は株主ではなく役員に支払うものであるため、このようなデメリットはありません。
配当の方が良い点1:期末でも自由に金額を決められる
役員報酬は、いったん金額を決定したら1年間は変更できませんが、配当金は期末でも自由に金額を決めて支給できます。期末に急に利益が出たときには、配当の方が支給しやすいです。
配当の方が良い点2:配当には社会保険料がかからない
役員報酬には社会保険料がかかるため、役員・会社ともにその分のコストを負担する必要があります。一方、配当には社会保険料がかかりません。
配当の方が良い点3:配当控除がある
配当には配当控除が適用されるため、もらった個人が確定申告すれば、配当額の5〜10%(課税所得額による)が還付されます。ただし、配当控除は最大でも10%のため、前述した役員報酬による法人税の節税率よりは小さい割合になります。
非上場企業では非上場株式の配当より役員報酬の方が節税できる
このように配当には、期末でも自由に金額を決められる・社会保険料がかからない・配当控除がある、という長所がありますが、実はその長所全てを足しても、役員報酬の方が節税効果が高いという点でメリットが大きいです。そのため、非上場企業では配当よりも役員報酬を出した方が節税面では有利といえます。
臨時で役員に支払うなら配当と役員報酬のどちらがいいか
上記は、あらかじめ決められたタイミングで役員報酬を出す場合の話になります。それでは、期末に想定よりも多くの利益が出たのでオーナーが臨時で支払うなら、配当と役員報酬のどちらがよいでしょうか。
実は、役員報酬は定期同額が原則のため、一定のルールに乗っ取らないと損金計上できません。期末に役員報酬を突然増額しても差額分は損金にならないため、決算後に臨時の役員賞与・配当のどちらを支払っても、法人税は節税できない点では同じです。
一方、配当は社会保険料がかからず配当控除もあるため、臨時で支払いたい場合には、損金として計上できなくてもよいなら配当の方が節税できます。しかし、配当控除は最大でも10%しかないため、最も良いのは、期末の利益分を翌年度からの月給(役員報酬)増額に回すことです。
自社株式の買取は「みなし配当」として課税される
冒頭で解説したように、非上場株式の配当金にかかる所得税率が高いなら、配当を出さなければいいと考えるオーナーもいるかもしれません。しかし、事業承継や自社株買いが必要な非上場企業のオーナーは、「みなし配当」の考え方を理解しておかないと足をすくわれる可能性があります。
本来、配当とは会社の利益を会社に分配することです。みなし配当とは、配当のほかにも、実質的に利益の分配とみなされる行為は、配当とみなされて所得税が徴収される制度となります。具体的には、自社株式の買取や会社の解散など、会社の利益が株主に分配される行為に適用されます。
たとえば、次のような会社があるとします。
- 資本金:2,000万円
- 利益積立金:8,000万円
- 純資産合計:1億円
- 発行株式:200株(オーナーであるあなたが全て所有)
オーナーであるあなたは、100株分の株式を5,000万円で会社に買い取ってもらいます。この際、会社から受け取る5,000万円の内訳は次のようになります。
- 資本金の払い戻し:1,000万円
- 利益の分配:4,000万円
出資した資本金の一部が払い戻された1,000万円分には課税されませんが、残り4,000万円分は、利益の分配=配当とみなされて、総合課税の対象となります。この場合、55%(所得税45%+住民税10%)もの高額の税金が課されてしまうのです。
つまり、配当を出さなくても、安易な自社株買いなど配当とみなされる行為によって、みなし配当課税として最高55%もの税金が課されるリスクが存在するということです。事業承継や自社株買いが必要な非上場企業のオーナーは、みなし配当課税の考え方を理解しておいた方がよいでしょう。
みなし配当課税は総合課税のため、受け取った利益が大きいほど税率も上がります。たとえば、会社の解散時に残余財産が多いケースでは、残余財産をそのまま株主である役員に分けてしまうと、役員個人が高額の所得税を徴収されてしまいます。そうした場合、退職控除がある退職金を役員に支給して利益を小さくすることで、みなし配当課税の軽減が可能です。
特定同族会社では内部留保に課税される点にも注意
では、配当を出さずに、自社株式の買取などの利益を分配する行為を行わないようにして、ひたすら内部留保を積み重ねればよいわけでもなく、特定同族会社では内部留保に課税される点にも注意が必要です。
特定同族会社かどうかは次のように判断しますが、資本金が1億円以下の場合には適用されません。
- 3つの株主グループが50%超の株式をもっているか?
→Yes:同族会社 No:非同族会社
- 同族会社の場合、1つの株主グループが50%超の株式をもっているか?
→Yes:被支配会社 No:それ以外
- 同社を支配する1つの株主グループを被支配会社とそれ以外に分け、被支配会社のみが同社の50%超の株式をもっているか?
→Yes:特定同族会社 No:それ以外
(ただし、1億円以下の資本金で、資本金5億円以上の大法人と完全支配関係がない場合には該当せず)
まとめ
非上場株式の配当金は、上場株式と比べると、総合課税のため高所得者ほど税率が高くなる傾向があります。また、役員報酬と比べると、配当は損金計上できないため法人税を減らせないので、非上場企業では配当よりも役員報酬の方が節税面では効果的です。
これは当然で、もし配当金で法人税が下げられるなら、決算で役員に多額の配当金を出して法人税をゼロにする会社が続出してしまうからです。法人税を節税したいなら、役員報酬やその他の方法で節税対策を考えるのがよいでしょう。
また、中小企業のような、事業承継が不可欠な非上場企業においては、配当金を出さない会社であっても、みなし配当の考え方は押さえておく必要があります。自社株式の買取など、会社の利益を分配するシーンにおいては、配当という形を取らなくても、受け取った側が総合課税の対象となってしまう点に注意が必要です。