非上場株式を譲渡する際の適正価格の決め方を解説

上場企業の株式は市場で取引されるため、株価は取引市場における需要と供給のバランスによって決まるのが一般的です。
これに対して、非上場企業の株式(以下、「非上場株式」という)は市場で取引されておらず、株価の評価は採用する算定方式によって大きな差異が生じる点に特徴があります。

そもそも非上場株式を譲渡する際は、M&A(「Mergers and Acquisitions」の略で、企業を合併・買収する行為のこと)により第三者に非上場株式を譲渡するケース、中小企業の事業承継でオーナー株主が従業員・取引先に非上場株式を譲渡するケース、相続対策の一環として親族間で非上場株式を売買するケースなどさまざまなシチュエーションがあり、このシチュエーションによって非上場株式の適正価格の算定方法も異なる場合があります。

そこで本記事では、非上場株式を譲渡する際の適正価格の決め方および、適正価格を知らないことで生じる問題や注意点などを中心にわかりやすく解説します。

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非上場株式を譲渡する際の適正価格を求める方法

はじめに、非上場株式を譲渡する際の適正価格を求める(評価する)方法として、一般的に採用されている以下の4つをそれぞれ順番に解説します。

  • 収益方式(インカムアプローチ)
  • 純資産方式(コストアプローチ)
  • 比準方式(マーケットアプローチ)
  • 国税庁方式(相続税評価額)

収益方式(インカムアプローチ)

収益方式(インカムアプローチ)とは、後述するコストアプローチ・マーケットアプローチと並ぶバリュエーション(企業価値評価)の1つであり、その中でも最もポピュラーな方法だとされています。

収益方式では、将来的に得られるであろう収入・利益などにもとづいて、非上場株式を譲渡する際の適正価格の算出を図ります。非上場株式の価格を算出する過程では計画性が求められるため、損益計算書やキャッシュフロー計算書などの指標を用いる点が特徴的です。キャッシュフローとは、現金の流れを意味し、企業の収入から支出を差し引いた額のことです。

収益方式(インカムアプローチ)は、主として以下3つの方法に細分化されます。

DCF法

DCF法(Discounted Cash Flow Method)では、企業が将来生み出す価値をフリーキャッシュフロー(企業が事業活動を通じて得た資金のうち自由に使える額)をベースに資本コスト(WACC。Weighted Average Cost of Capitalの略で、借入にかかるコストと株式調達にかかるコストを加重平均したもの)で割り引いて現在価値に換算し、これをもとに非上場株式を譲渡する際の適正価格を求めていきます。
DCF法は、別名「割引キャッシュフロー法」とも呼ばれています。

DCF法では、一般的に以下の計算式を用いて非上場株式の適正価格の算出を図ります。

  • 1株の価格=将来予測される年度別収益を現在価値に割引いた合計÷発行済株式総数

DCF法は、会社の持つ「のれん(営業権とも呼ばれる、会社の個別財務諸表には表現されていない超過収益力のこと)」や将来に対する期待などを反映する評価方法として合理的だと考えられており、大企業のM&Aを中心に採用されています。
M&Aの売却側企業が生み出すフリーキャッシュフローを計算するため、買収する企業としては具体的な金額で買収のメリットを把握できます。また、現在業績が芳しくないものの、将来的に事業成長が見込まれる企業を売却する場合、相場よりも高い株価で評価してもらえる可能性があります。

ただし、DCF法は、将来のキャッシュフローの予測に恣意性が介入しやすく、客観性に欠ける点にデメリットがあると考えられています。

収益還元方式

収益還元方式では、評価対象の企業が獲得する将来の利益を、​​資本還元率と呼ばれる特殊な数値で還元して、非上場株式を譲渡する際の適正価格の算出を図ります。損益項目のみで評価するため、DCF法よりも簡便に非上場株式の価格を求められます。

収益還元方式では、一般的に以下の計算式を用いて非上場株式の適正価格の算出を図ります。

  • 1株の価格=(将来予測される単年度の税引後純利益÷資本還元率)÷発行済株式総数

収益還元方式で用いる資本還元率は、市場金利・長期国債利回り・評価対象会社の調達金利などをベースに、危険率を加味したうえで決定されます。
また、危険率は評価対象会社の規模・業種・経営環境・市場動向・カントリーリスクなどを総合的に判断して決定されます。

しかし、将来予測にもとづく単年度の税引後純利益や、種々の要素を総合的に勘案する資本還元率などは、いずれも非上場株式の譲渡取引当事者間で納得のいく数字に収斂することは困難だと考えられています。

配当還元方式

配当還元方式では、将来予測される株主が対象企業の株式を保有することで獲得する配当に着目して、非上場株式を譲渡する際の適正価格を求めていきます。配当のうち内部留保分を算定の考慮に入れるかによって、「配当還元法」「ゴードン・モデル法」に区分されますが、いずれの方法も資本還元率をはじめとする算式の各要素が一義的に収斂しない点がデメリットです。

配当還元法では、一般的に以下の計算式を用いて非上場株式の適正価格の算出を図ります。

  • 1株の価格=(将来予測される年間配当額÷資本還元率)÷発行済株式総数

配当還元法は、配当を継続的に行っている非常企業の株式の適正価格を算定するうえでは有効と考えられているものの、年間を通じて継続した配当を行っていない会社では配当を予測することが困難であるため、この算定方法は適していません。

また、ゴードン・モデル法では、一般的に以下の計算式を用いて非上場株式の適正価格の算出を図ります。

  • 1株の価格=将来予測される年間配当金÷(資本還元率-投資利益率×内部留保率)

ゴードン・モデル法では、内部留保された利益が将来利益を生み、配当金は一定割合で増額するという仮定したうえで配当金の内部留保分の性質を考慮し、株価に反映させます。

ゴードン・モデル法で用いる投資利益率とは、投資金額に対して1年間に生み出す利益(税引後純利益)額の割合のことです。
また、内部留保率とは、税引後当期純利益のうち、株主への配当に回さず会社内に留保して利益剰余金として計上する割合をさします。

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純資産方式(コストアプローチ)

純資産方式(コストアプローチ)では、企業の純資産の時価評価額などを基準に評価対象企業を構築するためにかかるコストに着目して、非上場株式を譲渡する際の適正価格の算出を図ります。

純資産方式は貸借対照表の資産と負債の純額である純資産に焦点を当てることから、ストックアプローチ・ネットアセットアプローチなどとも呼ばれています。

純資産方式では、主として以下4つの方法を用いて非上場株式の適正価格の算出を図ります。

簿価純資産方式

簿価純資産方式では、評価対象企業の貸借対照表に計上されている資産・負債の差額として算出される純資産額をベースに、非上場株式を譲渡する際の適正価格の算出を図ります。
簿価純資産方式は、帳簿にもとづくため簡易的な評価方法といえるものの、簿価と時価に差額があると実態を反映できない点がデメリットです。

簿価純資産方式では、一般的に以下の計算式を用いて非上場株式の適正価格の算出を図ります。

  • 1株の価格=簿価純資産額÷発行済株式総数

修正簿価純資産方式

修正簿価純資産方式では、貸借対照表に計上された資産・負債のうち有価証券や不動産など時価評価による影響が大きい項目や時価を計算しやすい項目のみを時価評価して求めた純資産を基礎として、非上場株式の適正価格の算出を図ります。

すべての資産負債を時価評価するのは実務的に難しいことから、修正簿価純資産方式を用いて、⼟地や有価証券等の主要資産の含み損益のみを時価評価することが多いです。

時価純資産方式

時価純資産方式では、評価対象となる企業または事業の資産・負債のすべてを時価に置き換えて純資産を評価することで、非上場株式を譲渡する際の適正価格の算出を図ります。

具体例を挙げると、資産項目の1つである売掛金の回収不能額を控除したり、負債項目の1つである賞与引当金の引当不足を計上したりします。特に含み損益が発生する項目を対象とすることから、簿価純資産法のデメリットをカバーできます。ただし、あくまでも算定時点で所持する資産・負債を対象とするため、企業自体の将来的な有益性が評価できない点に注意しましょう。

時価純資産方式では、一般的に以下の計算式を用いて非上場株式の適正価格の算出を図ります。

  • 1株の価格=時価純資産額÷発行済株式総数

時価純資産法と前述した修正簿価純資産法の主な違いは、時価評価する資産・負債の範囲にあります。時価純資産法では全資産・負債の時価を求めて純資産額を計算するのに対して、修正簿価純資産法では有価証券や土地・建物などで一部含み損益の影響が大きく時価が入手しやすい項目のみを時価修正します

時価純資産方式+営業権

これは年買法と呼ばれている方法で、前述した時価純資産方式に営業権の評価を取り入れることで、企業の将来的な有益性の算定を図ります。

年買法では、一般的に以下の計算式を用いて非上場株式を譲渡する際の適正価格の算出を図ります。

  • 1株の価格=(時価純資産額+のれん代)÷発行済株式総数

年買法では、企業の純資産に年間利益の1倍から5倍をかけたものを「のれん代(営業権)」として加えて、非上場株式の適正価格の算出を図ります。
利益額は直近複数年の実績利益の平均値とするのが一般的で、平均する期間に明確な決まりはありません。
また、利益も営業利益・経常利益・EBITDA(利息、税金、減価償却が引かれる前の利益)のいずれを採用するかによって、企業価値の評価額が大きく変わります。
さらに、利益の何倍を採用するのかも任意です。

このように、年買法は任意の要素が多いため、設定の仕方で企業価値の評価額が変動する傾向があるものの、中小企業のM&Aを中心に積極的に用いられている方法です。

比準方式(マーケットアプローチ)

比準方式(マーケットアプローチ)では、市場での取引事例にもとづき、類似の会社・事業の資産や利益など複数の比準要素を比較することで、非上場株式を譲渡する際の適正価格の算出を図ります。

比準方式は、適切な比較対象となる上場企業が複数ある場合は市場での取引環境を反映できるために有効な算定方法といえるものの、類似企業が少ない場合には正確なデータを集められないリスクがあり、類似企業の抽出が困難となる点がデメリットだと考えられています。

比準方式では、主として以下2つの方法を用いて非上場株式の適正価格の算出を図ります。

類似企業比準方式

類似企業比準方式では、対象会社と類似する上場企業の株価と財務数値の倍率を算定し、その倍率を対象会社の財務数値に乗じて非上場株式の適正価格の算出を図ります。国税庁による財産評価基本通達の「類似業種比準方式」も、類似企業比準方式に属します。

類似企業比準方式は、類似企業や市場の株価をベースとした評価方法であるため、客観的で公平な価値算定が可能な点がメリットです。
ただし、価値を可能な限り正確に捉えるために類似企業を複数選定するのが一般的であるものの、類似企業が少ない場合は正確なデータを集められないリスクがあるため、類似企業の抽出が困難となる点がデメリットとして挙げられます。

類似企業比準方式を用いる場合、まず評価対象企業と規模・業種が類似する上場企業を数社選定します。
次に、これらの類似上場企業の指標を求めますが、指標として何を選択するかによって算出価値が適切に算出できない可能性もあるため、任意の指標は売上高・営業利益・EBITDA(Earnings Before Interest,Taxes,Depreciation and Amortization。財務分析上の指標の1つで、税引前利益へ特別損益・支払利息・減価償却費を足して求める値)などの中から複数を選び使用するのが一般的です。

続いて、類似公開企業の財務諸表の調整を行った後に、類似上場企業の各種倍率の算定を行いますが、評価対象企業の評価を行う場合には算定した倍率をすべて用いる必要はありません。
最後に、ここまでに算定した倍率を評価対象企業の各種財務数値に乗じて、非上場株式の価格を算定します。
類似企業比準方式を実際に採用する際は、倍率の適用における平均値・中央値の検討等に留意しましょう。

取引事例方式

取引事例方式では、評価対象企業の株式について、過去に適正な売買が行われたことがある場合、その取引価額をもとにして非上場株式を譲渡する際の適正価格の算出を図ります。
欧米等では、プライベート・エクイティ・ファンドやエンジェル投資家などが成熟しているために、非上場株式であっても頻繁に取引が行われていることから、過去の取引価格を参照するケースがありますが、日本では非上場株式の適正価格を算出するうえでそれほど用いられていません。

取引事例方式を採用する場合、基本的に直近で行われた売買の取引価額が用いられます。
また、取引事例方式を採用する場合、まずは利用する取引事例価額そのものが合理的な方法で評価されているかどうかを検討しなければならない点にも注意しましょう。

国税庁方式(相続税評価額)

国税庁方式では、相続税申告で用いる財産評価基本通達にもとづいて、相続税評価額をベースに非上場株式を譲渡する際の適正価格の算出を図ります。
国税庁方式には、類似業種比準方式、純資産価額方式、類似業種比準方式および純資産価額方式を併用した評価方法などがあります。

ここまで説明したとおり、非上場株式の適正価格を求めるための方法は多種多様ありますが、非上場株式は第三者間の売買で経済合理性のある取引価格が形成されるケースは少ない一方で、同族関係者など特定の者の間で取引されるケースが多く、売買価格を当事者間で恣意的に決めることが可能という特徴があります。

このことから、税法上では、財産評価基本通達をベースに、取引形式に応じて適正時価の計算方法を定めて課税する方法を採用しているのです(税法上でも、非上場株式の第三者間売買で経済合理性のある取引価格については、その取引価格を適正時価として採用することがあります)。

ただし、国税庁方式は評価の客観性には優れているものの、税金計算上の便宜的な計算式であることから、その会社の潜在的な価値を評価できず、必ずしも非上場株式の適正価格を算出できるとはいえません。

具体例を挙げると、現時点では先行投資に多額の費用が発生しており赤字体質だという企業の場合、将来的な収益性が見込める事業であっても、国税庁方式で非上場株式の価格を算出すると、収益方式(インカムアプローチ)などの算定方法と比べて株価が低く算定されることがあります。
これとは反対に、過去は好業績で内部留保が厚い会社であれば、需要減少の産業に属しており、将来的に収益力が弱まっていく見込みがあったとしても、国税庁方式を用いれば収益方式(インカムアプローチ)と比べて株価が高く算定されることがあります。

したがって、国税庁方式では計算方法の客観性を重視していることから過去の数字にもとづいて計算するのに対して、非上場株式を売買する当事者は対象企業の将来性にもとづいて株価を計算するケースがほとんどであるため、国税庁方式で算出された株価とその他の算定方法(例:収益方式)で算出された株価との間には乖離が生じてしまうのです。

参考:国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」令和4年4月1日現在法令等

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非上場株式の譲渡時の適正価格を知らないことで生じる問題

非上場株式の適正価格が問題となるのは主に相続時と譲渡時ですが、ここでは非上場株式の譲渡時に焦点を当てて、適正価格を把握できていない(株価を適切に評価できていない)ことで生じる主な問題点を解説します。

適正価格でのM&Aを実現できない

非上場株式を譲渡対象とするM&Aを行う際は、前述した方法で算出した株価にもとづいて当事者同士で交渉を進めていきます。
M&Aの交渉にあたって、あらかじめ非上場株式の適正価格を把握しておかないと、売り手からすると著しく安い価格で非上場株式を譲渡してM&Aしてしまったり、買い手からすれば著しく高い価格で非上場株式買い取ってM&Aをしてしまうおそれがあります。
このような場合、売り手は、十分な創業者利益を獲得できないリスクにつながり、買い手からすれば多額の買収費用に見合った買収メリットが得られないといったリスクにつながりかねません。

また、あらかじめ非上場株式の適正価格を把握しておかないと、交渉を冷静かつスムーズに進められない可能性があります。適正価格でM&Aを行うためにも、非上場株式の適正価格を把握しておくことが非常に大切です。

ステークホルダーから理解を得られない

非上場企業がM&Aにより自社株を譲渡する際、ステークホルダーへの説明責任を果たす目的で、非上場株式の適正価格の算出を図る場合もあります。この場合、非上場企業がステークホルダーに説明する際に、M&Aの取引価額の根拠となる金額を示し、透明性や客観性の確保に努めなければなりません。

非上場株式の適正価格を把握しておくことで、その時点での自社の評価額が明確となるため、M&Aの実施に対する説得力・有効性などを高められる可能性があります。

立場ごとの目的を達成できない

M&Aにおける立場によって、非上場株式の価値の見方、バリュエーションの目的は異なります。例えば、M&Aによる買収で対象企業の存続を図りたい場合、非上場株式の適正価格を把握しておかないと、事業継続の将来性をとらえられず、M&Aによる買収および対象企業を存続させることに失敗してしまう可能性が高まります。
また、M&Aによる売却で企業の清算を図るうえで、現在の非上場株式の適正価格を把握しておくことは必要不可欠です。
このように、非上場株式の適正価格は、M&Aの立場によって目的やとらえ方などが変わることも把握しておく必要があります。

みなし配当の課税

個人が非上場株式を発行会社に譲渡した場合、みなし配当(株主が配当を受け取っていない場合でも、税制上受け取ったとみなされて課税される制度)が適用されます。
みなし配当により、売却価額のうち、その株式に対応する「資本金等の額」を超える部分の金額は、配当があったものとみなされて総合課税されてしまいます。

みなし配当の課税を考慮するうえでは、保有する非上場株式の適正価格を算出し、その非上場株式の売却先を発行会社にすべきなのか、それとも発行会社以外への譲渡を検討すべきなのは、一考に値する大きなポイントだといえます。

上場株式の譲渡時の適正価格を決める際の注意点

最後に、非上場株式の譲渡時の適正価格を決める際の注意点の中から、代表的な2つをピックアップし、それぞれ順番に解説します。

価格は当事者の合意で決定できる

非上場株式を譲渡する際は、譲渡側と譲受側が株式譲渡価格に合意しなければいけません。
しかし、これは裏を返すと、非上場株式の算定方法に基づいた適正価格はあまり関係がなく、譲渡側と授受側が譲渡価格に納得して合意しさえすればよいということを意味します。

つまり、M&Aの当事者は、非上場株式の適正価格は関係なく、それぞれ「高いと思ったら買わない自由」「安いと思ったら売らない自由」があるのです。

ただ、M&Aの株式譲渡価格の価格交渉では、非上場株式の適正価格が基準となります。その非上場株式は客観的にその価値を有しているわけですので、譲渡側も譲受側もその適正価格を意識せざるを得ません。
ただ、非上場株式の適正価格を基準としつつも、譲渡側が魅力的に感じる貴重な経営資源を所有している会社は、それだけ株式譲渡価格が高くても合意できる可能性もありますし、そうでない会社は、もっと株式譲渡価格が低くなければ合意できない可能性もあります。

このように、最終的なM&Aの株式譲渡価格は、非上場株式の適正価格を基準としつつも、譲渡側と譲受側のニーズを踏まえた当事者の交渉による調整が加えられた形で決まることとなるのです。

売り手と買い手の企業価値は違う

M&Aに際して、バリュエーションを通じて非上場株式の適正価格の算出を図る際、売り手と買い手の間で算出価格が一致しないことがあります。

例えば、売り手にとっては価値のない経営資源(例:活用する見込みのない顧客情報)が、顧客情報を活用したマーケティングにより新規顧客の獲得を図りたい買い手にとっては非常に価値が高いというケースもあれば、買い手にとっては、店舗網が重複しているとか労働組合が存在しているとか、M&Aでそれを取り込んでも企業価値が向上しないようなケースや経営の障害になるような企業価値向上の障害になるようなケースもあります。

このように、売り手と買い手の経営資源に対する見方が異なっている場合、買い手がM&Aの実施により見込まれるシナジー効果(2つ以上の企業・事業が統合して運営される場合の価値が、それぞれの企業ないし事業を単独で運営するよりも大きくなる効果のこと)が発生することもあれば、これとは反対に、ディスシナジー効果(2つ以上の企業・事業が統合したからこそ企業価値を毀損してしまうような効果のこと)を加味してバリュエーションを行った場合、売り手が想定していたよりも高い値の企業価値が算出されることがあります。

もちろん、この事例とは反対に、買い手が売り手の経営資源に対して感じる魅力度が低いために、売り手が想定していたよりも低い値の企業価値が算出されることもあるのです。

バリュエーションにはかかわる要素は多く、算出方法も多彩です。バリュエーションの目的や対象企業の状況に合わせた手法を選ばないと、企業価値を見誤るおそれがあります。非上場株式の適正価格を算出するためには、複数の算出方法を併用すると良いでしょう。

必ずしも譲渡価格と時価が同じとは限らない

非上場株式の譲渡ではここまでに紹介した算定方法により算出された時価と、実際の譲渡価格が必ずしも同じである必要はありません。しかし、課税上妥当な価額(税務上の時価)との差異が大きく開いた場合、後日税務署から多額の贈与税を請求されることになります。これは課税の公平性や納税者の平等に資する観点から、財産の移転により所得を得た者に対しては適正に課税することが必要と判断されるためです。

実務上、国税庁では画一的なルールを設けて、これに従って税務上の時価を定めており、これと当事者の実際の売買価格とを比べて課税処分を行っています。

とはいえ、M&Aで第三者が非上場株式をすべて買い取る際の価格や、裁判所が決定した価格などは「純粋に経済合理性のある、市場経済原理に基づいて売買価額が決定される間柄」として税務上も是認されます。つまり「純然たる第三者間」の取引であれば、合意価額は妥当と判断されます。

市場の影響を受けやすい

バリュエーションの実施にあたって、市場や経営環境において予期していなかった事態が発生した場合、算出される非上場株式の価格に大きな影響を与えることがあります。

例えば、何らかの原因で株価が一時的に暴落した場合、バリュエーションにより算出される値は小さくなることが考えられますが、それは企業の実際価値を反映したものではなく適切な値とはいえません。

そもそも市場・経営環境はその場その場に応じて時々刻々と変化するため、バリュエーションにより非常株式の適正価格の算出を図る際は、この点を考慮する必要があります。

非上場株式の譲渡を適正価格で行うためには専門家への相談が大切

非上場株式の譲渡価格は、譲渡側と譲受側のパワーバランスによって、ときに不公平な価格設定がされていまいます。

非上場株式の取引当事者それぞれの立場の優位性が著しく偏っていることも、譲渡価格の合意が難しい要因の1つです。

また、譲渡側・譲受側が非上場株式の価格を決めるにあたって、必ずしも同程度の判断材料を持っているとは限りません。
情報の非対称性は非上場株式を譲渡する際の交渉において不利に働くこともあるため、適正価格を算出したうえで対等な交渉に持ち込みたい場合は、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

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まとめ

非上場株式を譲渡する際の適正価格を求める方法として、一般的に採用されているのは、収益方式(インカムアプローチ)、純資産方式(コストアプローチ)、比準方式(マーケットアプローチ)、国税庁方式(相続税評価額)の4つの評価方法です。これらの方法は、さらに複数の算定手法に細分化されています。

非上場株式の譲渡にあたって、自身の状況に適している算定方法を判断するのは非常に難しいです。非上場株式の譲渡を適正価格で行うためには、弁護士に相談することをおすすめします。