非上場株式の物納!

相続税には「物納」という納税方法があります。相続税は基本的に金銭で納めるルールです。しかし、相続は突発性のある出来事なので、相続税の支払いに充てる金銭がないケースも存在します。そんなときに金銭の代わりに物を納める方法が物納です。

非上場株式も物納の対象になる物です。ただし物納には厳格なルールが定められているため、非上場株式を物納することは、容易ではありません。非上場株式の物納には、株式発行会社にとってのリスクも付きまといます。

  • 相続税の物納とは
  • 物納のルールとは
  • 非上場株式の物納はなぜ難しいのか

以上のポイントについて、非上場株式問題に精通する弁護士が解説します。

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相続税の物納とは

物納とは、相続税を「物」で支払う制度です。相続税の支払窓口でお金を払うのではなく、不動産などの物を引き渡します。物の引き渡しや権利移転をもって、相続税の支払いにしてもらうという制度が物納です。

税金の支払いは基本的に金銭ですが、どうしても相続税支払いのための金銭がない場合もあります。相続税の場合は特に、「人の死」という突発的な出来事により課税が行われるため、事前に税金の支払いに充てるお金をプールしていないケースが多いのです。相続発生時まで、個人の財産は常に変動する可能性もあります。税金が発生するまで正確な税額の把握が難しいところも、相続税のための資金プールが難しい理由のひとつです。

相続税は「人の死」や「相続」という突発的な事情によって課税される。税金相当分のプールが難しい。以上の事情を考慮し、一定の条件のもとで物による納付が許されます。

ただし、どのような相続ケースでも自由に物納できるわけではありません。物納には厳しいルールがあるのです。ルールが厳しいため、物納は簡単に認められないという現実があります。

相続税の物納のルールとは

物納は、物納による納付が認められないとできません。いきなり窓口に行って「物納します」と宝飾品を置いてきても駄目だということです。あらかじめ物納を申請し、物納を認めてもらう必要があります。

物納を申請したからといって、物納が必ず認められるわけではありません。物納のための審査や調査があり、税務署側が許さないと物納できないのです。

1.物納の条件を満たしているか。金銭での支払いが可能ではないか。

2.金銭の代わりに納付する物は何か。ルールに沿っているか。

以上を厳しくチェックした上で、物納を許すかどうかが判断されます。物納までの道のりは険しいと言えるでしょう。

物納のルールは、相続税法41条に定められています。簡単にまとめると、以下のようなルールです。

  1. 相続税の金銭納付が困難で、困難な正当理由がある。分納(分割払い)でも困難な場合でなければ物納は許さない。
  2. 納付が困難な金額の限度でのみ物納を許す。
  3. 物納に充てられる財産は4種類。4種類の物には順位付けしてあり、順位が上の物から物納に充てる。
  4. 物納に充てることのできる物(財産)は条件を満たしていなければならない。
  5. 相続税の納付期限または納付すべき日まで税務署へ物納の申請書とその他必要書類が提出済みでなければいけない。

1~5が基本的なルールになります。金銭でどうしても払えない場合のみ物納が許されます。物納の対象になる物についても、かなり細かな注文をつけていることが分かるはずです。基本的なルールを見ただけで、物納の難しさが感じられるのではないでしょうか。

物納の納付物のルール

物納の対象になる物について、もう少し詳しく見ていきましょう。

物納では、どのような物でも納付の対象になるわけではありません。物納のルール範囲内の物が対象になるのです。さらに、物納の対象になる物には順位が定められており、順位が上の物から物納に充てるルールになっています。

物納の対象になる主な物と順位は以下の通りです。

順位1位

不動産や船舶、一部の有価証券

→土地や建物、国債、上場株式など

順位2位

非上場株式など

順位3位

動産

→美術品や宝飾品、自動車、家具などの家財道具など。

相続税を物納されると、税務署側には換金という手間が生じます。お金と異なり、換金する物の価値は変動し、ときに思うように換金が進まない可能性があるのです。安定的に換金でき、換金相場も比較的安定している物ほど上位にあることが分かります。

中小企業オーナーや役員が特に注目したいのは、物納の第2順位に「非上場株式」があるという点です。自社株式が非上場株式だった場合は、不動産などの第1順位の物がないときに物納の対象になる可能性があります。

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非上場株式の相続税の物納はなぜ難しいのか

非上場株式は相続税の物納対象にできます。ただし、実際に物納に使えるかは、「難しい」が結論です。非上場株式の物納には制約があり、さらに、非上場株式を発行している会社にとってリスクもあります。

非上場株式の物納はなぜ難しいのでしょう。理由は6つあります。

  1. 物納第1順位の物を持っている可能性が高い
  2. 管理処分不適格財産に該当する可能性が高い
  3. 物納の申請には期限がある
  4. 物納の許可が下りない可能性がある
  5. 競売により他者の手に渡るリスク
  6. 非上場株式の買戻しの資金準備が必要

非上場株式の株主は物納第1順位の物を持っている可能性が高い

非上場株式を物納に充てようと考えても難しい理由のひとつ目が、「他の財産を持っている可能性が高い」です。

物納の順位1位には、中小企業オーナーがよく所持している財産が多く羅列されています。中でも特に所持している可能性が高いのは、不動産ではないでしょうか。

不動産の物納を希望しても、その不動産が担保になっている等の事情があれば物納は難しくなります。不動産は多くの中小企業オーナーや会社役員が所持している可能性の高い物。不動産が物納の対象になり、非上場株式の物納には至らない可能性が考えられます。

非上場株式は管理処分不適格財産に該当する可能性が高い

仮に非上場株式まで物納の順位が回ってきたとしても、非上場株式は基本的に管理処分不適格財産に該当する可能性が高いのです。管理処分不適格財産は、物納の対象にできない物(財産)を意味します。

管理処分不適格財産に該当する株式は、以下のようなものです。

  1. 譲渡制限株式
  2. 担保の目的になっている株式
  3. 譲渡に関して法律の定めた手続きがあり、その手続きがとられていない株式
  4. 権利の帰属で争いがある株式
  5. 共有株式(共有者全員が物納を申請する場合は可)
  6. 暴力団などが役員を務める会社の株式

非上場株式の物納では、物納対象にする物のルールに引っかかることが懸念されます。譲渡制限を外すなどの対処が必要です。

相続税の物納の申請には期限がある

物納は相続税が課税されれば、自動的に選択肢のひとつになるわけではありません。物納の申請をする必要があります。相続税法41条では、物納の期限のルールにも言及がありました。以下、物納の申請についてです。

相続税の納付期限または納付すべき日まで税務署へ物納の申請書とその他必要書類が提出済みでなければいけない。

このように、物納は納付期限または納付すべき日まで準備を整えなければいけないのです。

相続は人の死によって発生します。相続に対しての課税である相続税も、突発的な課税です。人が亡くなると、相続税のことにかかりきりとはいきません。葬儀などの準備も進める必要がありますし、亡くなった人が中小企業を経営していた場合は、会社の経営や事業承継の問題もあります。相続税以外の準備に追われ、相続税の手続きがなかなか進まなかったり、物納を検討していても準備が後手に回ったりすることは考えられます。

相続財産をある程度整理しないと、金銭での支払いが可能か見えてこないというケースもあるはずです。非上場株式については、譲渡制限を外す等の処置が必要だという難しさもあります。

相続税の期限は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」です。準備や期限の面で厳しいスケジューリングを強いられる可能性があります。

非上場株式の物納の許可が下りない可能性がある

物納は申請後に審査と調査があり、許可が下りてはじめて可能です。物納できそうな非上場株式などを所持していても、許可が下りない可能性も考えておくべきではないでしょうか。

非上場株式を持っていても「許可が下りず物納できない」こともあります。非上場株式の物納は税務署の裁量次第なのです。

非上場株式が競売により他者の手に渡るリスク

物納した株式は、競売により第三者に売却される可能性があります。

株式を発行している会社にとって、これは大きな痛手であり、リスクです。第三者の手に渡るのが嫌だ。家族や親族で経営したい。気心の知れた仲間同士、小規模でやって行きたい。いろいろな事情から発行されるのが譲渡制限株式です。基本的に、第三者に自由に譲渡されるのが嫌だから、譲渡制限を付けるのではないでしょうか。

譲渡制限が外され、競売によって第三者に売却されてしまう。これでは、譲渡制限株式の意味がありません。経営に第三者が入ってきてしまう可能性があります。競売により第三者が入ってくるリスクや会社の事情があるからこそ、非上場株式の物納は難しいのです。

非上場株式の買戻しの資金準備が必要

物納した非上場株式は買戻しが可能です。物納された非上場株式を買戻すことで、会社の継承者や中小企業は、第三者の手に株式が渡るリスクを回避できます。税務署としても、買戻ししてもらえば、金銭が手に入ります。株式発行会社側と徴税側、どちらにもメリットのある仕組みです。

ただし、買戻し資金が問題になります。

前述した通り、相続は人の死によって突発的に発生します。相続税も突発的に等しい課税です。会社などは、相続人が非上場株式を物納する可能性を最初から視野に入れ、計画的に資金をプールしていることは、ほとんどないはずです。買戻しの必要が出てから、買戻し資金の準備に奔走することが多くなっています。

株式発行会社などは急いで買戻し資金計画を立てなければいけません。買戻しという便利な仕組みもありますが、資金準備という点で難しさがあります。

最後に

非上場株式の物納自体は可能ですが、実際に物納することは非常に険しい道だと言えます。

相続という突発的な事態で困らないように、普段から計画を立てておくべきではないでしょうか。早い段階で事業承継を検討したり、相続税対策を打ち出したりするなど、先を見据えて動き出すことが重要です。

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