株式売買価格について取得時に額面価格と合意(非常に低額な価格に合意)していたらその価格になってしまいますか?!

株式売買価格について取得時に額面価格と合意していたらその価格になってしまいますか?!その価格が、非常に低額な価格であったとしたら非常に不合理ではないですか?

この論点については、判例があるのです。判例について解説します。

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概要

缶製造業・不動産賃貸業を営む株式会社(以下「関係人」という)の従業員持株会(以下「申立人」という)が、保有している関係人の株式4370株(以下「本件株式」という)を譲渡することにしました。関係人には株式譲渡制限の定めがあったため、申立人は関係人に対して譲渡承認請求を行いました。その内容は、申立人の会員への株式譲渡を承認するか、関係人またはその指定買取人が本件株式を買い取るかの決定を求めるものです。

関係人は譲渡を承認しない旨の決定をし、申立人に対し、本件株式を買い取る旨の通知をしました。このときの株式売買価格について、申立人・関係人の双方が、会社法144条2項に基づいて裁判所に決定申立てを行った事案です。

以下、会社法については条文番号のみ示します。

当事者の主張

関係人の主張

株式売買価格を決定するに当たり、当事者間での売買価格に関する合意がない場合は専ら株式の客観的価値を考慮します。しかし、本件においては申立人・関係人の間で売買価格に関する黙示の合意があるのです。申立人が解散した場合に、申立人名義の株式を関係人が買い取る際の価格の決め方について、申立人の規約(以下「本件規約」という)に定めがあります。本件規約26条に従って計算すると、本件株式買取価格は1株当たり500円となります。

裁判所が売買価格を決定する際は、当該合意の存在を考慮すべきです。合意があるにもかかわらず、株式の客観的価値のみを考慮して決定するのは妥当ではありません。

申立人は、従業員の福利厚生のために設立されました。従業員は経済的な負担をせずに、本件株式の配当を得ています。本件株式を売却する形で申立人が利益を得ることは想定されていません。

平成25年5月28日または29日に従業員が関係人を退職する際、関係人が申立人の持分を1株あたり500円で買い取る旨の合意をしていました。

申立人の主張

裁判所は、本件株式の客観的交換価値に基づいて売買価格を決定するべきです。申立人が設立された経緯は、株式の客観的交換価値に影響を及ぼしません。また、関係人が主張している黙示の合意など、他の事情を考慮することはできないと解するのが妥当です。

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裁判所の判断

証拠・審問の全趣旨から認められる事実

平成12年頃、関係人の株式とB株式会社の株式について、関係人の代表取締役の家族と、代表取締役の弟の家族が持ち合う状況になっていました。この状況を解消するために協議が行われ、従業員の福利厚生を充実させる目的で申立人が設立されたのです。

申立人が設立された際、従業員は関係人から臨時支給された金銭を申立人に払い込みました。従業員は経済的負担をしていません。申立人は、従業員から払い込まれた金額を原資とし、代表取締役の弟とその家族から本件株式を取得しました。

ここで、関係人が申立人への株式譲渡を承認した際の1株当たりの価格は250円です。本件株式以外にも株式がありましたが、これらは1株当たり4万2731円で代表取締役とその家族に譲渡されました。

本件規約16条1項により、会員が申立人を退会することになる場合には、申立人または申立人の指名する者が会員の持分を買い取ります。また、本件規約26条1項により、申立人が持分を会員から買い取る際の単価を算出する際に用いられる方法は配当還元方式です。ただし、算出された価額が額面金額を下回った場合は額面金額となります。

関係人の株式が額面株式だった時点では、額面額が1株500円でした。平成13年当時は純資産額が10億円を超えていましたが、平成25年の時点では約6億5000万円になっていました。

申立人設立後、毎年行われていた配当は1株当たり25円です。また、申立人の会員が退会する場合は、申立人が1株当たり500円で持分を買い取っていました(本件規約26条1項、同2項)。

本件株式売買価格

144条2項に基づく申立てが行われた場合に、裁判所が株式売買価格を決定する際は会社の資産状態その他一切の事情を考慮します(144条3項)。しかし、これは非訟手続によって決めるものなので、売買価格の決定に関しては裁判所の合理的裁量に委ねられているのです。

本事案では会社が譲渡等承認請求を承認しなかったため、会社が株式を買い取ることになりました。その結果、会社と譲渡等承認請求者との間で株式売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じたのです。このような状況において、当事者間で事前に売買価格に関する合意をしていた場合は、原則として合意に基づく価格を株式売買価格とするのが相当であると考えられます。

申立人設立当時の会員は、関係人から臨時支給された金銭を支払って入会していました。つまり、実質的な経済的負担をしていないのです。申立人設立後に入会した会員の場合は、1株に相当する持分につき500円を払い込んでいますが、1株に相当する持分につき25円の配当金を毎年受領しています。

会員が申立人を退会する際は、持分の払い戻しを受けることができます。金額は本件規約26条2項に基づき配当還元方式によって算出されますが、額面額相当の500円を下回ったとしても500円とされるのです。したがって、少なくとも各自が負担した払込金を回収することができます。

申立人の供述によると、関係人が申立人から本件株式を買い取る際の価格に関しては、額面額か配当還元方式による額以外はあり得ません。これは、申立人が設立された当時から、申立人と関係人代表者との間で共通認識になっていたことです。

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黙示の合意

会員が申立人を退会した後に、本件株式の一部を保有し続けることは想定されていません。そして、実際に保有し続けることもなかったのです。また、申立人が、第三者または会員に本件株式を譲渡することも想定されていませんでした。

申立人が本件株式を保有しなくなった場合は、関係人が本件株式を買い取ることになります。このときの買取金額は、本件規約26条2項に基づき配当還元方式によって算出した金額、または額面相当額の500円とする旨の黙示の合意があったと認めるのが相当です。申立人が本件株式を取得する際に金銭的負担をしていなかった以上、本件株式を処分する際に特別な利益を得ることは全く予定されていなかったと考えられます。

申立人設立後に入会することになった株主には金銭的負担がありました。しかし、負担していたのは1株当たり500円です。前記合意の内容に従って売買価格が1株につき500円であると決定したとしても、株主が負担していた分を回収することができます。合意内容が株主の投下資本回収を著しく制限するような不合理なものであるとは解されません。

本件には、会社が従業員持株会からの譲渡承認請求を承認しなかったため、会社が株式を買い取ることになったという経緯があります。このことにより、従業員持株会と会社との間で株式売買契約を締結したのと同様の法律関係が生じることになったのです。本件株式売買価格を決定する際には、このような事情を考慮することになります。

また、前記のような合意が認められなかった場合でも、売買価格を1株につき500円とする判断をしたことは、裁判所の合理的裁量の範囲内として許されるものと解されます。

合意が認定された背景

本件においては、申立人・関係人の間で買取価格に関する合意があったと認定されています。しかし文書によるものではなく、関係人が主張したように黙示の合意でした。

裁判所も、一般的には株式の客観的交換価値を考慮して売買価格を決定するべきだと判断しています。ただ、本件の場合、会社が譲渡承認請求を承認せず株式を買い取る決定をしたため、株式売買契約が成立したのと同視できる経緯があったのです。売買契約の当事者である関係人・申立人の間で合意があれば、その合意に基づいて決定することができると判断しました。

その1株につき500円という金額は、関係人の株式の額面額が500円であったこと、申立人が会員の持分を買い取る際の金額が500円であったこと、申立人の規約があったことに基づきます。このような合意を認定しても、株主が資本回収をする上で著しい制限にならないことも関係しています。

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