株主代表訴訟とは?事例、制度の概要、流れ、対策も解説

昨今、大企業の役員などが不祥事を起こしたことに対して、株主が株主代表訴訟を提起したことが大きなニュースとなりました。こうした報道を聞いたことがある人も多いことでしょう。近年、それぞれの企業の株主に企業のステークホルダーとしての意識が高まっており、株主代表訴訟が目立っている状況です。

株主代表訴訟は、あくまでも大企業でのみ問題となることだと考えている経営者の方もいますが、中小企業の役員であっても企業に損害を与えれば、株主から株主代表訴訟を提起されるリスクがあります。

そこで本記事では、株主代表訴訟の事例および制度の概要、取締役をはじめとする役員が負う責任、流れ、株主代表訴訟の対象(会社の役員に対する任務懈怠に基づく損害賠償請求権など)、企業側が講じることのできる対策を中心にわかりやすく解説します。

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株主代表訴訟とは

株主代表訴訟(英語:Stockholders’ Representative Action)とは、個々の株主が、自ら会社のために役員の会社に対する責任を追及する訴訟のことです。会社法の施行以前の商法では、株主代表訴訟の規定には取締役に対する責任の追及に関するのみが存在しましたが、会社法の施行によって取締役のほか監査役・執行役・清算人等に対する責任の追求に関しても規定されるようになりました。

平成18年(2006年)施行の会社法第847条によると、「企業の経営者である取締役等の違法行為・定款違反・経営判断の誤りによって企業に損害が生じた際、企業が該当の取締役等の責任を追及しない場合には、株主が代わりに違法行為を起こした役員に対して責任を追及することができる」旨が規定されています。

上記の規定を踏まえると、株主代表訴訟とは、株主が役員に対して自身が有している債権を行使するのではなく、会社が役員に対して有している債権(損害賠償請求権等)を株主が会社に代わって行使することのできる訴訟であると考えられています。

本来であれば、会社が役員に対して債権を有しているため、会社自身が役員に対して責任を追及するべきです。しかし、役員同士の仲間意識などから会社が役員に対して責任追及することを怠るケースが想定されます。こうした事情から、会社が積極的に役員の責任を追及することが期待できないケースもあり、結果的に会社や株主の利益が害されるおそれがあります。したがって、会社や株主の利益の回復・確保を図る目的のもと、株主が実質的に会社の代表的地位に立って、責任を追及する訴訟が認められているのです。

役員が負う責任の種類

本章では、役員が負う責任の種類を、企業に対する責任とそれ以外に対する責任に分けて順番に解説します。

企業に対する責任

役員は会社から経営を任されている立場であり、主に以下のような義務を負っています。

  • 忠実義務(会社法第355条)
  • 競業避止義務(会社法第356条)
  • 善管注意義務(会社法第330条、民法第644条)
  • 利益相反取引の制限(会社法第356条)
  • 監視・監督義務(会社法第362条2項)

役員がこれらの義務を果たさずに会社に対して金銭面や信用面などで損害を与えた場合、株主代表訴訟で責任を問われる可能性があります。

取締役が会社に対して注意義務を負っていることを前提に、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があるケースは、例えば以下のような場合です。

  • 役員の任務を怠った場合(任務懈怠責任、会社法第423条)
  • 競業取引をした場合
  • 利益相反取引をした場合
  • 株主に対して利益供与をした場合
  • 分配可能額を超えて剰余金を配当した場合
  • 出資の履行が適法になされなかった場合

企業以外に対する責任

役員は、一般的な不法行為に対する責任や金融商品取引法に規定される責任なども負います。具体例を挙げると、以下に対する責任です。

  • 粉飾決算で損害を受けた株主(会社法第462条、金融商品取引法第24条の4など)
  • 代金を支払えなくなった取引先
  • ハラスメント被害者

会社法の第429条によると、「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と規定されています。

役員の第三者に対する責任が認められるための要件は、以下のとおりです。

  • 役員がその職務を行うについて任務懈怠(義務違反)があったこと
  • 役員に悪意又は重大な過失があったこと
  • 第三者に損害が生じたこと
  • 役員の任務懈怠と第三者の損害に因果関係があること

上記の規定は実務上、倒産した会社の債権者が会社の取締役に対して責任を追及し、債権回収を図るために使われることが多いです。

株主代表訴訟の対象

本章では、株主代表訴訟の対象となる債権について取り上げます。

会社の役員に対する任務懈怠に基づく損害賠償請求権

この債権は会社法第423条にもとづくもので、役員が任務(善管注意義務・忠実義務等)を怠り、その結果、会社に損害が発生した場合に生じます。

取締役には、すべての法令を遵守し職務を執行する義務が課されています(会社法第355条)。取締役の任務には法令を遵守して職務を行うことも含まれており、法令に違反する行為をした場合は任務を怠ったことになると考えられています。

具体的には、以下のような場合で、取締役が任務を怠ったと判断されることがあります。

  • 多額の投資をしたが失敗した場合(経営判断の失敗)
  • 会社と同じ事業を同一地域で行った場合(競業避止義務違反)
  • 会社の所有する土地を廉価で購入した場合(利益相反行為)
  • 取締役の債務を保証する場合(利益相反行為)

会社の役員に対する取引債権

これは、役員側からすれば、会社に対する取引債務だといえます。この取引債務には、取引が無効である場合の不当利得返還債務、解除された場合の原状回復義務等が含まれます。

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株主代表訴訟の事例

続いて、株主代表訴訟の事例の中から代表的な10件をピックアップし、順番に概要を紹介します。

事例1.ヤクルト本社株主代表訴訟

本件は、ヤクルト本社が、平成3年(1991年)から平成10年(1998年)までデリバティブ取引を行ったことで平成10年3月期に特別損失を計上し、最終的に約533億円の損失を被ったことに関して、当時の役員らに善管注意義務違反等があるとして同社の株主が提起した株主代表訴訟です。

平成20年(2008年)5月21日、東京高等裁判所は当該副社長の責任を認めたものの、他の役員らの責任は否定しています。同社のリスク管理体制は他の事業会社には劣らず、当時の知見を前提とすれば相応のリスク管理体制があったと認定され、他の役員の監視義務違反は認められませんでした。

事例2.アパマンショップHD株主代表訴訟事件

平成18年(2006年)5月頃、アパマンショップHD(以下、「A社」という)の取締役らは、完全子会社に主要事業を担わせ、アパマンショップHDを持株会社とする事業再編計画を策定し、この計画に沿ってアパマンショップマンスリー(以下、「B社」という)をA社の完全子会社とする決定を行いました。

この決定に伴い、B社の株主(フランチャイズ加盟店等)から株式買取または株式交換を行うことになりましたが、その対価が不当に高額であるとして、A社の取締役としての善管注意義務違反があり、A社に対する損害賠償責任を負うと主張して、A社の株主が取締役らに対して善管注意義務違反による損害賠償を請求しました。

平成22年(2010年)7月15日、最高裁判所は、「取締役に、株式買取価格決定について、善管注意義務違反はない」としてA社取締役の責任を否定しました。 判旨は以下のとおりです。

  • A社によるB社の完全子会社化はA社の事業再編計画の一環であり、完全子会社化のメリットの評価や将来予測にわたる経営上の専門的な判断に委ねられている
  • B社の株主には事業の遂行上重要なフランチャイズ事業の加盟店等が含まれる
  • B社の非上場株式としての評価額には相当の幅があり、事業再編による企業価値増加も見込まれた
  • 買取価格決定に至る過程で、経営会議の検討・弁護士意見の聴取等の手続きが履践された。

この最高裁判決において、経営上の専門的判断については、決定の過程および決定の内

容に著しく不合理な点がない場合には、取締役としての善管注意義務違反がないという審査基準が定立されました。また、この判決は、後ほど紹介する「経営判断の原則」を明確にした画期的な判決とされています。

事例3.大和銀行株主代表訴訟

これは、平成7年(1995年)に発覚した大和銀行ニューヨーク支店の巨額損失事件を巡り、同行の株主が当時の取締役ら49人に対して、損失した約11億ドルと捜査当局に支払った罰金など3億5,000万ドルの総額14億5,000万ドル(約1,550億円)を賠償するよう求めた株主代表訴訟です。

平成12年(2000年)9月20日、大阪地方裁判所は株主側の訴えを一部認めて、当時ニューヨーク支店長であった元副頭取に対して単独で5億3,000万ドル(約567億円)を、ニューヨーク支店長をはじめとする現・元役員ら11人に対して計約2億4,500万ドル(約262億円)をそれぞれ支払うように命じました。

本判決のポイントは、取締役らが負う2つの責任です。1つ目は、元行員が約11億円の損失を出したことに対する管理責任です。裁判所は、これについて「大和銀行ニューヨーク支店の証券保管残高の確認方法が、著しく適切さを欠いていた」と指摘し、「元行員の不正の機会を与える結果になった」と判断しています。

当時のニューヨーク支店長だった取締役にのみ「保管残高の確認を極めて不適切な方法で行い、適切な方法に改めなかった点で、任務を果たしていなかった責任がある」とし、不正行為を発見または防ぐ責任を認めて踏み込んだ判断をしました。

2つ目は、アメリカでの司法取引で有罪を認めて罰金を払ったことについては、当時の取締役11人に「法令に違反してアメリカでの報告を怠ったのは不適切な経営判断」として、それぞれの責任の度合いに応じて計約2億4,500万ドルを連帯して支払うよう命じたことです。

これに対して、取締役らは「大蔵省の要望、示唆に反してアメリカ当局に報告する期待可能性がなかった」と主張したものの、大阪地方裁判所は「大蔵省が取締役らに対し、権限に基づき、アメリカ当局に対する報告をしないよう指示ないし命令したと認めるに足りる証拠はない」とした一方で、取締役らが「我が国内でのみ通用する非公式のローカル・ルールに固執し、大蔵省銀行局長の威信を頼りとして大和銀行の危機を克服しようとして、アメリカ当局の厳しい処分を受ける事態を招いた」と判断しました。

事例4.神戸製鋼所株主代表訴訟

平成9年(1997年)3月、神戸製鋼所は他の総会屋が出席しないようにするための「工作資金」として総会屋に2,000万円を供与しました。その後、同年12月には関係を絶つための「手切れ金」として同じ総会屋に1,000万円を供与しています。平成8年(1996年)以前の供与については時効が成立しているため立件されなかったが、10年以上にわたり利益供与が行われていました。

これに対して、神戸製鋼所の株主は、取締役が総会屋に対する利益供与に関与したこと及び裏金の捻出に関与したことについて、上記行為に直接関与した取締役だけではなく、企業のトップである代表取締役に対する責任も追及する株主代表訴訟を提起しています。

平成14年(2002年)4月5日、神戸地方裁判所は裏金の捻出および社外流出がなされ、あるいは長きにわたり利益供与行為が継続されていたにもかかわらず早期に有効なその防止管理体制を構築できなかったことについて、取締役に経営トップとしての責任を認めて、3億1,000万円を会社に支払うことで和解が成立しています。

神戸地方裁判所は「神戸製鋼所のような大企業の場合、職務の分担が進んでいるため、ほかの取締役や従業員全員の動静を正確に把握することは事実上不可能である。

そのため取締役は、商法上固く禁じられている利益供与のような違法行為はもとより、大会社における厳格な企業会計規制をないがしろにする裏金捻出などの行為が社内で行われないよう、内部統制システムを構築すべき法律上の義務がある」旨を述べています。

事例5.ダスキン株主代表訴訟

平成12年(2000年)の10月から12月にかけて、ダスキン傘下のミスタードーナツで販売していた「肉まん」に国内で無認可の添加物が使われていました。ダスキンは取引業者に口止め料を払う等の隠蔽工作を行い、平成14年(2002年)5月まで、この事実を伏せていました。

これに対して、ダスキンの株主が、取締役・監査役の責任を追及する株主代表訴訟を提起しています。平成19年(2007年)1月、大阪高等裁判所は、担当の取締役に対して「仮に販売を中止し、混入を公表しても信用回復のため一定の出費を要した」として、約53億4,000万円の支払いを命じる判決を下しました。

また、平成18年(2006年)6月、大阪高等裁判所は、隠ぺいに関与していない取締役・監査役11名に対しても、連帯して約5億6,000万円の損害賠償責任を認める判決を下しています。

不祥事の隠ぺいに積極的に関与しなかった取締役についても「自ら積極的には公表しない」という方針を採り、消費者やマスコミの反応をも視野に入れたうえで積極的な損害回避の方策の検討を怠った点において、善管注意義務違反があるとして責任を認めています。

事例6.雪印食品株主代表訴訟

平成13年(2001年)より、雪印乳業の子会社である雪印食品が、当時国がBSE対策事業の一環として行っていた国産牛肉買い取り事業を悪用し、輸入牛肉を国産牛肉と偽って補助金を詐取しました。取引先の冷蔵会社の告発により、平成14年(2002年)1月に発覚しています。

これに対して、平成15年(2003年)2月、雪印食品の株主が当時の役員・監査役の責任を追及する株主代表訴訟を提起しています。平成17年(2005年)2月、東京地方裁判所は「元社員による牛肉偽装工作を元役員らが把握していたとはいえない」として、株主の請求を棄却しました。

事例7.蛇の目ミシン工業株主代表訴訟

平成元年(1989年)、蛇の目ミシン工業の株式を買い占めて筆頭株主になっていた仕手筋集団「光進」の小谷光浩氏が、経営陣に株の高値買取りを要求し、応じない場合は暴力団に売り渡すと恐喝し、融資の名目で約300億円を脅し取りました。

これに対して、小谷光浩氏個人に対して株主代表訴訟が提起され、平成13年(2001年)3月29日の東京地裁判決において、蛇の目に対して939億円の損害賠償義務があるとする判決が出されました。また、小谷以外の経営陣に対しても、融資の判断による損失などについて株主代表訴訟が提起され、平成20年(2008年)に東京高等裁判所が当時の旧経営陣5人に対して583億6,000万円の賠償命令を下しています。

事例8.住友電気工業株主代表訴訟

住友電気工業は、自動車の電子部品をつなぐ電線「ワイヤハーネス」の販売を巡ってカルテルを結び、独占禁止法違反で約88億円の課徴金を納付して会社に損害を与えました。これに対して、平成24年(2012年)5月、住友電気工業の関西在住の男性株主が、当時の役員ら22人に対して課徴金分の損害賠償を求める株主代表訴訟を提起しました。

平成25年(2013年)11月ころより、大阪地方裁判所から原被告双方に対して、一定の解決金の支払と裁判所外での真相解明や再発防止に向けた枠組みを作ることでの和解勧奨がありました。これに対して、平成26年(2014年)年3月31日付けで双方に正式な和解勧告がなされ、同年5月7日に和解が成立しています。

事例9.オリンパス株主代表訴訟

平成23年(2011年)、オリンパスは当時社長に就任していたマイケル・ウッドフォード氏による告発によって、旧経営陣らによる不透明な企業買収と会計処理が行われていたことが明るみとなりました。

この損失隠しの問題をめぐって、オリンパスの株主は弁護団に委任し、オリンパスに対して取締役らの責任を追及するよう提訴請求を行い、さらに監査役及び会計監査人らに対しても責任追及の訴えを提訴するよう提訴請求書を追加しました。

これに対してオリンパスは、同社が設置した「取締役責任調査委員会」の調査結果をもとに、提訴期限の平成24年(2012年)1月8日、東京地方裁判所に菊川を含む取締役ら19名に対する損害賠償請求訴訟を提起しました。

同月17日、弁護団は上記のオリンパスによる訴訟とは別に、ウッドフォード氏解任に関する取締役らの責任について株主代表訴訟を提起しました。さらに、オリンパスは同社が設置した「監査役等責任調査委員会」による調査結果をもとに、同月16日に現旧監査役ら5人に対して損害賠償請求訴訟を提起しています。

これら一連の訴訟に対して、東京地方裁判所は、菊川剛元社長ら6人の賠償責任を認め、総額約590億円をオリンパスに支払うよう命じています。

事例10.みずほ銀行株主代表訴訟

みずほフィナンシャルグループ(以下、「みずほFG」という)および同社の子会社であるみずほ銀行(以下、「みずほBK」)が、同行系列信販会社であるオリエントコーポレーション(以下、「オリコ」という)との提携ローンにより暴力団員ら反社会的勢力に対して融資を行っていた問題についての株主代表訴訟です。

この株主代表訴訟では、平成26年(2014年)3月28日付で東京地方裁判所に訴状を提出し、みずほFGおよびみずほBKが金融庁から業務改善命令を受けたことなどによってみずほFGが被った損害について、認識した当該反社会的勢力との取引を解消するために具体的な措置を講じるよう求める義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったという善管注意義務違反があるとして、当時のみずほFG役員らに対して計約16億7,000万円の損害賠償を求めました。

これに対して、令和2年(2020年)に東京地方裁判所は、「原告の主張であるみずほFGの取締役は、新たに反社会的勢力との取引が発生することを防止するための体制を構築する義務を怠ったという点を否定し、みずほBKに対して認識した反社会的勢力との取引を解消するために具体的な措置を講じるよう求める義務までは負っていない」として請求を棄却しています。

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株主代表訴訟の流れ

本章では、株主代表訴訟を提起する際の大まかな流れを6つのステップに分けて解説します。

提訴前の準備

まずは、6カ月以上にわたり株主代表訴訟の対象となる会社の株式を保有する株主が、会社に対して不祥事などを起こして会社に損害を与えた役員等の責任を追及してもらいたい旨を請求します(会社法第847条1項)。

この「会社に対して」とは、会社の監査役に対してです。なぜなら、会社法上、会社と取締役との間の訴えの提起の際には監査役が会社を代表し(会社法第386条1項1号)、株主からの提訴請求の受領も監査役と規定されているためです(同法386条2項1号)。

そのうえで、監査役は、この請求の日から60日以内に会社が何らかの対策を講じなかった場合、上記の旨を請求した株主は株主代表訴訟を提起できるようになります(会社法第847条3項)。

裁判所への提訴

次に、株主が裁判所に対して株主代表訴訟を提起します。株主代表訴訟は、会社の本店所在地の地方裁判所に提起しなければなりません(会社法第848条)。地方支社等で起こった問題であっても、本社所在地の裁判所に訴える必要があります。

訴訟手数料の納付

株主が、裁判所に対して訴訟にかかる手数料を納付します。株主代表訴訟の提起にあたって裁判所に納める手数料は、一律に13,000円です(民事訴訟費用等に関する法律第4条2項)。

訴訟の告知

株主代表訴訟を提起する株主は、対象となる会社に対して、訴訟することの告知を行わなければなりません(会社法第849条3項)。

会社の訴訟関与

会社が株主からの提訴請求に応じず、株主が株主代表訴訟を提起した場合、訴訟の原告は株主で、被告は役員等になります。会社は判決の効力を受けるものの(民事訴訟法第115条1項2号)、株主代表訴訟の手続そのものには関与しません。

しかし、会社の意思決定に関連して株主代表訴訟が提起されている場合に、被告側である役員等に加勢し、意思決定の正当性を訴訟の場で明らかにすることを会社が望むケースもあります。このようなケースでは、会社は被告側である役員等に補助参加することが認められています(会社法第849条1項)。ただし、取締役や執行役等の側に会社が補助参加する場合、監査役等の同意が必要となる点に注意が必要です(会社法第849条3項)。

判決

最後に、裁判所により株主代表訴訟についての判決が下されます。原告である株主側が勝訴した場合、株主側は賠償金を受け取ることはできず、会社側に支払うことを要求することのみが可能です。ただし、株主側は、株主代表訴訟にかかった費用(調査費用など)や弁護士への報酬について、会社側に請求することが可能です(会社法第852条1項、3項)。

これに対して、原告である株主側が敗訴した場合、仮に悪意を持って株主代表訴訟を起こした株主側が敗訴すれば、会社に対して損害賠償を支払う責任を負います。

なお、場合によっては、株主代表訴訟を提起する株主側と訴えられる役員側でなれあいが生じる可能性も想定されます。これを防止するために、会社法第849条1項では「他の株主又は株式会社による訴訟参加」、会社法853条では「再審の訴え」がそれぞれ認められています。

株主代表訴訟の決着の仕方

株主代表訴訟の決着の仕方には、和解と判決の2種類があります。それぞれの内容や留意点を順番に解説します。

和解

和解の場合、会社も当事者として加わることができ、その場合には会社と株主間でも同時に株主代表訴訟が決着します。ただし、株主代表訴訟について和解がされる場合において、会社が和解の当事者でないときは、裁判所は株式会社に対してその内容を通知し、かつその和解に異議があれば2週間以内に述べる旨を催告しなければなりません(会社法第850条2項)。

そして、会社がその期間内に書面をもって異議を述べなかった場合、上記による通知の内容をもって株主が和解をしたことを承認したものとみなされます(会社法第850条3項)。

上記の規定が設けられている理由は、原告株主と被告役員等が自由に訴訟上の和解を行えるとなると、原告株主だけの判断により役員等の責任が免除されることにもなりかねないためです。会社法では、和解内容により会社の利益が害されないよう、和解が認められるのは会社が和解の当事者となっている場合や所定の手続きにより会社に承認した場合に限られるとされています(会社法第850条1項)。

判決

株主代表訴訟の判決が確定した場合、原告株主に対して既判力(判決の内容である裁判所の判断について生ずる拘束力)を有します。そのため、原告株主は再審の訴えによるほかは、当該判決の効力を再度争い、または再訴を提起することはできません。また、会社に対しても、当該確定判決は勝訴であること敗訴であることを問わず、既判力を有します(民事訴訟法第115条1項2号)。

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株主代表訴訟リスクへの対策・対応

株主の提起する株主代表訴訟のリスクに対しては、その事前および事後について会社側ではさまざまな対策・対応が求められます。

本章では、株主代表訴訟リスクへの対策・対応を、訴訟の提起前・提起時・提起後に分けてそれぞれ順番に取り上げます。

株主代表訴訟の提起前の対策

まずは、株主代表訴訟の提起前に会社側で講じられる対策の中から代表的な7つをピックアップし、順番に解説します。

経営判断の原則を考慮した意思決定

会社の役員は、日々刻々と変動する不確実な経営環境のもとで経営的な判断を下さなければならず、限られた時間・限られた経営資源のもとで意思決定を下さなければなりません。

結果的に、役員の下した決定が良い結果を招かない可能性は十分にあり、仮に上手くいかなかったという結果のみで責任追及されるのであれば、役員の行動は萎縮し、会社の積極的な経営の妨げになるおそれがあります。 こうした事情から、以下の要件を満たしている場合、会社の役員は善管注意義務違反にならないという「経営判断の原則」があります。

  • 経営の意思決定のために、十分な情報を集める
  • 様々な選択肢を検討して、意思決定を行う
  • 意思決定においては、会社の意思決定機関や外部弁護士等の専門家の意見を聞く等、適切な手続を行う。

つまり、会社の役員からすると、情報収集のアンテナを十分に張り、さまざまな選択肢を冷静に比較しながら社内の意思決定手続を遵守し、専門家の意見等も十分に聞くことで、意思決定の過程や内容が著しく不合理なものにならないよう注意することが重要です。

内部統制システム・リスク管理体制の構築

会社の役員は、内部統制システムを構築・運営する責任を負います。これを詳しく説明すると、会社の役員には社内のリスク管理体制を構築し、自分の担当業務だけでなく他の役員の担当業務を相互に監視する責任があり、従業員の違法行為を防止するための法令遵守体制を確立する義務があることを意味します。

言い換えれば、役員は内部統制システム・リスク管理体制を適切に構築・運営し、責任を果たしていれば、たとえ会社に巨額の損失等の問題が生じたとしても、基本的には株主代表訴訟において敗訴し、賠償責任を負うことはないと考えられています。

役員の責任の免除・限定

会社法には、役員の責任を免除・限定する以下のような制度があります。

総株主の同意(会社法第424条) すべての株主の同意が得られた場合は、役員の責任の限定・免除を行える。

現実的には、規模の小さい会社でのみ活用できる。

株主総会特別決議(会社法第425条) 役員の任務懈怠について重過失がない場合、「最低責任限度額」を超える部分のみ免除できる制度。

最低責任限度額は、取締役の役職・退職慰労金・ストックオプション等の条件によって異なる。

取締役会決議による免責(会社法第426条) 役員が任務懈怠について重過失がなく、定款に定めがある場合、「最低責任限度額」を超える部分のみ免除できる制度。
責任限定契約(会社法第427条) 業務を執行しない役員に重い責任を課すと、役員のなり手がいなくなるとの考えから生まれた制度。

役員が任務懈怠について重過失がないという要件を満たす場合、会社に対する損害賠償責任が一定の額に制限される。

なお、事前の対応としては責任限定契約のみが活用できますが、便宜上、4つの制度をここでまとめて紹介しました。

会社役員賠償責任保険

会社役員賠償責任保険とは、役員が責任追及を受けたときのリスクをヘッジする方法として活用できるもので、別名「D&O(Directors and Officers)保険」と呼ばれています。

会社役員賠償責任保険は、会社の役員としての業務の遂行に起因して、保険期間中に損害賠償請求が行われたことによって被る損害を、保険期間中の総支払限度額(保険金の最高限度額)の範囲内で支払う保険です。

参考までに、会社役員賠償責任保険の代表的な補償条項を以下にまとめました(保険会社により補償内容は異なります)。

約款名 内容
損害賠償金 役員等が負う法律上の損害賠償金(※以下は補償対象外)

・税金、罰金、科料、過料、課徴金、懲罰的損害賠償金・倍額賠償金の加重された部分

・他人との特別の約定によって加重された損害賠償金など

争訟費用 役員等に対する損害賠償請求に関する争訟によって生じた費用で、保険会社の同意を得て支出したものを補償する
会社訴訟補償 記名法人またはその子会社からなされた損害賠償請求により役員等が被った損害に対して補償する
初期・訴訟対応費用補償 約款に記載された損害賠償請求がなされた場合、役員等または会社が初期対応、訴訟対応するにあたって保険会社が認めた費用を補償する
会社補償 D&O保険によって保険金を支払うべき損害において、会社が法律、契約または定款等に基づいて適法に役員等に対して補償を行ったことにより、会社が被る損失補償をする
会社有価証券賠償責任補償 会社の有価証券の売買もしくは募集等において法令もしくは証券取引所の規則に違反したとの申し立てに基づいてなされた損害賠償請求により会社が被る損失補償をする
雇用慣行損害賠償請求 以下に起因する損害賠償請求を役員等が負った場合に補償する

・被用者等に対して行った不当行為

・第三者ハラスメント

先行行為補償 初年度契約の始期日より前に役員等によって行われた行為に起因する損害賠償請求を補償する遡る期間は保険会社により異なる
被保険者間訴訟補償特約 他の役員等からなされた損害賠償請求により役員等が被った損失補償をする
第三者委員会設置費用 会社が第三者委員会を設置した場合に、会社が負担した所定の費用を補償する

会社役員賠償責任保険を活用する場合、会社が保険契約者となり、全役員を被保険者として保険会社と契約します。一部の役員のみを被保険者にすることは許されず、役員が個人的に保険契約を締結することもできない点に注意しましょう。退任した役員や役員死亡後の相続人への責任追及なども考慮し、これらの人も被保険者とみなされるよう設計されています。

被保険者には、執行役員等の重要な使用人や子会社役員等も加えることが可能です。ただし、契約内容自体や特約の有無によってカバーされる損害の範囲が異なるほか、特に違法行為による取締役の損害賠償責任はたいてい補償の対象外ですので、熟慮のうえで契約することが求められます。会社役員賠償責任保険では補償されないことがあるのは、例えば以下のような事由・行為に起因する損害賠償請求です。

  • 役員等が私的な利益または便宜の供与を違法に得たこと
  • 役員等の犯罪行為
  • 法令に違反することを役員等が認識しながら行った行為
  • 役員等に報酬または賞与等が違法に支払われたこと
  • 役員等が公表されていない情報を利用して、株式、社債等の売買等を行ったこと
  • 身体の障害または精神的苦痛
  • 財産の滅失、き損、汚損、紛失または盗難
  • 会社または役員等が他人に対して有償で行う専門的業務の遂行に過誤があったとの申し立て

株主代表訴訟に対する担保の請求

株主代表訴訟の提起は株主の悪意を持って行われることは禁じられているものの、訴訟を起こされる可能性はゼロではなく、こうしたケースでの会社側の対策も把握しておくことが大切です。

株主が悪意を持って株主代表訴訟を提起する場合、後ほど会社側から損害賠償請求が可能となります。そのため、会社側としては、株主側が悪意なく訴訟を起こすつもりなのかを確認するために、株主に対して相応の担保を請求することが望ましいです(会社法第847条の4第2項、3項)。株主が本当に会社に責任があると考えているならば担保を差し出してくるのが通常ですが、担保の提出がなかった場合、審理に入ることなく株主代表訴訟は棄却されます。

法令に沿った経営・コンプライアンスの順守

ビジネスにはリスクが伴うものであって、結果的に失敗したからといって必ずしも違法と評価され責任を追及されるわけではありません。したがって、日頃から法令や定款等に従ってきちんと経営をしていれば、株主代表訴訟を提起されたからといってそれほど心配する必要はありません。

ただし、株主代表訴訟を提起されれば、それに対応せざるを得ず、役員には経済的・精神的な負担がかかることは間違いありません。そこでまず肝心なのは、株主代表訴訟を提起されないような経営環境を作ることです。

そのためには、きちんと取締役会、株主総会を開催して合意の上で経営を行うほか、取締役会・株主総会の議事録や計算書類等の書類をきちんと作成・保存し、法律に基づいて請求があれば閲覧させるなどの配慮が必要でしょう。

不祥事発生に対する誠実な姿勢

株主代表訴訟は、義憤にかられた株主から提訴されることが多いです。そのため、会社および役員側の不祥事発生時の誠実な対応が、株主代表訴訟を抑止することにつながるとも考えられます。

例えば、リコール問題が発生した際、顧客の目線に立った速やかな情報提供や、記者会見での誠実な対応などが、株主代表訴訟を避けるために有効な対策の1つになります。

株主代表訴訟の提起時の対応

続いて、株主代表訴訟の提起時に会社側で講じられる対応の中から代表的な4つをピックアップし、順番に解説します。

専門家との速やかな協議

株主代表訴訟の対応を誤れば、会社と役員にも甚大な悪影響を及ぼします。そのうえ、多くの会社と役員にとって、株主代表訴訟はほとんど馴染みがないため、事態発生時には速やかに専門の弁護士と相談し、対応を進めていきましょう。

証拠書類等の保存

株主代表訴訟の対象となっている問題に関する証拠書類や記録などは、確実に保管してください。 役員自身や会社にとって都合の悪いものを隠したり廃棄したりすれば、訴訟の際に会社が著しい不利益を被ります。

会社の補助参加

株主が株主代表訴訟を提起した場合、会社に対して訴訟告知をし、会社は他の株主にもその事実を知らせる必要があります。これは、会社や他の株主にも訴訟に参加する機会を与える目的を叶えるための決まりです。

もっとも、例外的に訴訟参加することが不当に当該訴訟を遅延させる場合や、裁判所の負担を著しく大きくさせる場合には、訴訟に参加することは認められません。

たとえ会社は当該役員に責任がないと考えていても、役員が敗訴してしまえば会社の意思決定方法に問題があったと考えられ、今後の業務にも多かれ少なかれ影響が及びます。 そのため、会社は役員の訴訟遂行を助けるために、被告役員側に訴訟参加を行うのが通例です。

法が上記のとおり訴訟参加を広く認めている趣旨は、原被告間での馴合訴訟の展開を防止しようという点にあります。つまり、役員等の責任追及の訴えを株式会社が提起した場合もしくは株主が株主代表訴訟を提起した場合において、原被告間で馴合訴訟をして原告敗訴となった際は、既判力が及ぶ株式会社は当然のこと、他の株主にも敗訴の不利益が及びます。

もちろん株式会社や他の株主は、こうした馴合訴訟に対しては株式会社の権利を詐害する目的が原被告間にあったことを立証し、再審の訴えを提起できます。しかし、こうした迂遠な方法を取るまでもなく、あらかじめ馴合訴訟を防止し、会社の不利益を防ぐことが、訴訟参加の目的として掲げられています。そして、この訴訟参加を容易にならしめようという制度が、訴訟告知(会社法第849条4項)なのです。

なお、会社が被告取締役等の側へ補助参加するためには、監査役(監査役設置株式会社の場合。委員会設置株式会社では監査委員)全員の同意が必要です(会社法第849条3項)。

危機管理の広報の大切さ

会社で不祥事が発生した場合、適切なタイミングで記者会見を開催したり、Webサイトで公式にアナウンスを行ったりして、誠実に対応を進める意思があることを世間に理解してもらうことが大切です。

株主代表訴訟の終了後の対応

会社としては、株主代表訴訟の結果にかかわらず、役員による不正行為等の存在やその疑いがあったと認められる場合、その再発防止策を策定・実施することを検討しなければなりません。

また、本来であれば株主代表訴訟は会社が原告となって行うべき訴訟を代わりに株主が行うものです。代わりに訴訟追行してもらった以上、訴訟終了後は株主と会社との間で一定の処理を行うことが望ましいです。例えば、株主が勝訴(一部勝訴の場合を含む)した場合には、株主は会社に対して、株主代表訴訟に関して支出した必要費用(調査費用、通信費など)や弁護費用の内で相当と認められる額の支払いを求めることが認められており、会社としては株主の当該請求に対応する必要があります。

株主代表訴訟の濫用等を防止する制度

続いて、株主代表訴訟の濫用等を防止する制度を取り上げます。

訴えの却下

株主代表訴訟が当該株主もしくは第三者の不正な利益を図り、また当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、株主は提訴請求や株主代表訴訟を提起できません。上記の場合以外でも、株主代表訴訟の提起が訴権の濫用に該当する場合は、会社は裁判所に対して訴え却下を求めることが可能です(民事訴訟法第847条1項ただし書)。

株主代表訴訟の濫用は役員および会社に対する不法行為となり得ます。被告の役員は不法行為を構成するような濫訴に対しては、その旨を明確に指摘し、反訴として不法行為による損害賠償請求をすることで、株主側に対して強力な反撃を加えることが可能です。

担保提供命令

株主代表訴訟の被告である役員は、原告の株主が「悪意」で株主代表訴訟を提起したことを疎明し、原告株主に担保を提供させるよう裁判所に対して申し立てることが可能です(会社法第847条の4第2項、3項)。

この担保は、原告株主の不法行為責任が認められた際、その賠償金支払いの担保となるものであるため、被告取締役による担保提供の要求は不法行為責任の追及とあいまって濫訴原告に対する強力な反撃となります。

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まとめ

これまでに株主代表訴訟の事例は多く報告されており、有名企業・大企業の事例も少なくありません。株主代表訴訟が提起された際は、訴訟に対する対応以外にも、会社としてはさまざまな対応に追われます。企業の信頼を回復するためにも、専門家である弁護士と連携しながら適切な対応をすることが求められます。