自社株を相続するための進め方とは?相続対策やよくあるトラブルも解説 

中小企業の経営を相続人である後継者に承継させるためには、自社株を相続させることが一般的な方法です。自社株の相続手続きでは、相続税、他の相続人の遺留分侵害、経営権確保のための後継者への株式集約など考慮すべき点が多数あります。 

現在では、事業承継税制や事業承継資金の特例融資制度なども用意されているので、弁護士等の専門家に相談しながら着実に事業承継を進めていきましょう。 

自社株の相続の進め方 

自社株の相続は、会社の経営者である被相続人が後継者である相続人に経営を承継させることを目的に行うものです(事業承継)。 

事業承継の際は、様々な経営資源を経営者から後継者に引き継ぐ必要があります。 

経営資源には、次のように様々なものがあります。 

  • 人的資源 従業員等 
  • 資産 株式、資金、負債、不動産や設備などの事業用資産 
  • 知的資産技術、ノウハウ、取引先、顧客情報 

その中でも要となるのが経営権の承継で、具体的には、後継者である相続人に自社株の大半を承継させることを目指します。 

株式の保有状況の確認 

会社を経営する取締役は、株主総会決議により選任されます。中小企業のように株主が限られている会社では、「大株主=取締役=会社の経営者」となるパターンが多いため、株式の大半を後継者に取得させることが、事業承継、つまり、会社の相続のために重要になります。 

会社の相続をスムーズに進めるためには、会社の株式の状況を把握し、後継者に集約することを検討する必要があります。 

集約すべき株式数は、「議決権を行使できる株式の過半数」が当面の目標です。 

後継者が総議決権の過半数を握っていれば、他に反対する株主がいたとしても、株主総会で取締役の選任・解任、配当や決算書類の承認などの決議を通すことができ、安定した経営が可能になります。 

経営をさらに安定させるためには、「議決権を行使できる株式の3分の2以上」を保有することが理想です。 

後継者が総議決権の3分の2以上を有していれば、定款の変更、増資、合併や組織再編等のように特別決議が必要になる場合でも、決議を通すことができます。 

分散した株式の集約を進める 

 株式の保有状況を確認したら、後継者に引き継ぐために、株式の集約を進めます。 

上場会社では、様々な少数株主が存在するのが普通ですが、非上場会社では、株式は極力、経営者が保有すべきで、少数株主が存在する状況も好ましくありません。 

まず、少数株主が存在する場合は、株主名義の書換えへの対応、株主総会の招集手続き等、株主の管理、対応のコストが掛かります。 

また、少数株主が株主総会の議決を左右するほどの議決権を握っていなかったとしても、株主代表訴訟を提起されてしまうリスクがあります。 

非上場会社の中小企業ではこうした事態に対応できる人員が限られているため、極力、少数株主を生じさせないことが望ましいわけです。 

 更に、将来、M&Aを検討している場合は、売り手側の会社は全株式を保有していることが前提となることもあります。 

そのため、事業承継の機会に分散株式の集約を進めるべきです。 

所在不明株主の株式取得を進める 

株式の保有状況の確認を行った結果、所在不明株主が多数に上る場合もあります。 

この場合は、事業承継に備えて、所在不明株主の株式取得を進めておく必要があります。 

所在不明株主の株式を会社が取得するためには、株主と連絡が取れなくなってから5年以上経過している必要があります(会社法196197条)。また、取締役会決議を経た上で裁判所に株式売却許可申立てを行う必要があります。 

5年以上経過していない株式については、取得できないことになりますが、所在不明株主に関する会社法特例(経営承継円滑化法)により、「5年」を「1年」に短縮することが可能になっています。 

この特例を利用するためには、経営困難要件、円滑承継困難要件の2つを満たした上で、都道府県の認定を受ける必要があります。 

いずれにしても、所在不明株主がいるために、事業承継が困難になっている場合は、専門家に相談してこうした手続きを利用すべきです。 

名義株主の解消を進める 

 株式の保有状況の確認を行った結果、名義株主の存在が発覚することもあります。 

名義株主とは、会社に資金を払い込んだ出資者と株主名簿上の株主が異なる場合のことです。 

例えば、平成2年以前の商法では、株式会社設立時に発起人を最低7人集めなければならなかったため、頭数を揃えるために、親族や知人の名前を借りていたケースもあります。 

このような場合、名義株主がいるために、後継者が経営権を掌握するために必要な株式を握ることができないケースもあります。 

 あるいは、自社株を将来子どもが相続することを見越して、最初から子ども名義で株式を発行していたところ、その子どもたちの一人を後継者にと考えたのであれば、他の子ども達から名義株を回収しなければ、後継者が経営権を掌握できないこともあります。 

 いずれにしても、名義株は、会社を創業した人しか、発生の経緯を知らないことが多いため、創業者の責任において解消しておくことが、事業承継のためにも重要と言えます。  

株式の評価額を把握する 

会社の株式を後継者に集約するにあたっては、株式の評価額を確認した上で予算を組む必要があります。 

株式の取得にかかる費用はもちろんですが、相続により引き継いだ場合は相続税、株式を生前贈与された場合は、贈与税もかかるので、税額も併せて計算する必要があります。 

上場していない株式(取引相場のない株式)の評価方法は、原則的評価方式または特例的な評価方式である配当還元方式のいずれかです。 

会社の経営支配力を持っている同族株主が株式を取得する場合は、原則的評価方式が選択されます。 

原則的評価方式の場合、会社の規模ごとに、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式が用いられ、中会社の場合は、二つの方式が併用されます。 

株式を引き継ぐ方法の選択 

株式を引き継ぐ方法としては、経営者が亡くなった時点で相続により引き継ぐ方法と経営者が後継者に生前贈与しておく方法があります。 

生前贈与の場合は、経営者が意図した後継者に確実に株式を引き継ぐことができますが、贈与税がかかってしまうことを考慮する必要があります。 

相続の場合は、経営者が意図した後継者に引き継がせたい場合は、遺言書を残しておくのが確実です。 

遺言書がない場合は、相続人同士で遺産分割協議が行われますが、株式が後継者以外の相続人に分散することもあるため、後継者が経営に必要な株式数を確保できないこともあります。 

株主総会を開催 

相続、生前贈与のいずれの場合でも、後継者に株式を引き継いだら、株主総会を開催したうえで、後継者を取締役及び代表取締役に選任します。後継者が株式の過半数を保有していれば、形式的な手続きになります。 

商業登記手続 

後継者を取締役及び代表取締役に選任したら、取締役変更の登記申請を行います。 

法務局での商業登記の際には、株主総会議事録等が必要になります。 

自社株の相続時によくあるトラブル 

自社株の相続時によくあるトラブルは、後継者の経営権を確保できない。他の相続人の遺留分を侵害してしまう。相続税納税資金が足りないといった問題です。 

後継者の経営権確保の問題 

経営者が後継者に自社株を生前贈与していなかった場合は、後継者は相続により株式を引き継ぐことになります。 

ただ、遺言がない場合は、遺産分割協議により自社株の相続人を決める必要があります。 

経営者が相続人の一人を後継者にすると生前に話していたとしても、相続人全員がそれで納得しているとは限りません。 

自社株以外に分割できる遺産がない場合は、自社株を相続人同士で分け合う形になってしまい、自社株が分散されてしまい、後継者が株主総会での議決権を確保できなくなってしまうこともあります。 

他の相続人が株主として会社の経営に口出しできる状態になると、後継者が会社の経営に集中できなくなってしまいます。 

他の相続人の遺留分問題 

経営者が相続人の一人を後継者と決めて、遺言書により、自社株の大半を後継者に相続させる旨を書き残すこともできます。 

この場合、後継者に確実に株式を相続させて、会社の経営も引き継ぐことができますが、他の相続人もいる場合は、その相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があります。 

一般に経営者の遺産の大半は自社株が占めていると言われており、後継者以外の相続人に対して承継させるべき遺産が他にないことも珍しくありません。 

遺留分を侵害している場合は、他の相続人から、後継者に対して遺留分侵害額請求がなされてしまいます。 

この場合、後継者としては、他の相続人に支払うべき現金の工面に苦慮することもあります。 

相続税納税資金問題 

後継者が自社株を相続により無事取得することができ、他の相続人への遺留分の支払いの問題もクリアしたとしても、相続税を納税できるかどうかの問題が生じます。 

相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。 

基本的に相続税の納税期間は猶予されないため、その間に、相続税を支払うための現金を調達する必要があります。 

しかし、この現金をどのように確保すべきかで苦慮する後継者も少なくありません。 

相続した自社株自体は、売却して換金することは難しいですし、売却した場合は経営権が弱まってしまうため、本末転倒の結果になってしまいます。 

自社株の相続対策1 後継者の経営権確保問題対策 

後継者の経営権確保問題への対応としては、 

  • 遺言書を作成する 
  • 生前贈与を行う 
  • 生前に後継者に株式を買い取らせる 
  • 種類株式を導入する 

といった対策が有効です。それぞれ解説します。 

遺言書を作成する 

経営者が自分の相続人のうち、意図した後継者に経営を承継させたいと考えているのであれば、遺言書に、その後継者に自社株を相続させる旨をはっきり書くことが大切です。 

特に、経営者の子どもの数人が会社の経営に関与していて、後継者争いが生じかねない状況の場合は、先代経営者の意向が後継者の決定に大きな影響を及ぼすことになります。 

また、法定相続人が後継者以外にもいる場合は、自社株以外の遺産を後継者以外の法定相続人に取得させる旨を同じ遺言書に書き残すなどして、遺留分を主張されないような対策を講じておく必要があります。 

生前贈与を行う 

後継者に経営権を確保させるための最も有効な方法は、経営者が存命している間に、自社株を生前贈与しておくことです。 

先代経営者の目の黒いうちに、後継者に自社株を承継させてしまえば、他の相続人が異議を述べにくいですし、先代経営者が亡くなった際も、後継者が株式を完全に掌握していれば、他の相続人から会社の経営に関して口出しされることもありません。 

ただし、生前贈与に際しては、後継者側に贈与税が課税されるため、納税のための資金を確保する必要があります。 

また、自社株の生前贈与が特別受益と認定されてしまう可能性もあります。この場合、相続時に持ち戻しの対象となってしまうので注意が必要です。 

生前に後継者に株式を買い取らせる 

経営者の存命中に後継者に対して自社株の生前贈与を行うことにより、後継者が多額の贈与税を負担することになる事態を避けるためには、後継者に株式を適正価格で買い取らせる方法も有効です。 

適正価格での取引の場合は、他の相続人との間でトラブルに発展しにくい利点もあります。また、先代経営者は、株式売却により得た資金を老後の生活費などに充てることもできます。 

ただ、自社株を売却した場合は、先代経営者に譲渡所得税が課税されることに注意が必要です。 

また、適正価格で株式を売買する場合は、後継者がそれ相応の資金を用意しなければなりません。その資金をどのように調達するのかが問題になります。後継者の役員報酬額を増やして、買取の原資を貯めておくことも考えられますが、資金がない場合は金融機関からの借り入れも必要になります。 

なお、後継者に適正な株価を大きく下回る価額で株式を売却した場合は、贈与税が課せられる可能性もあるため注意が必要です。 

種類株式を導入する 

後継者に承継させられる株式が限られている場合は、種類株式を活用することも有効です。 

種類株式とは、他の株式とは権利内容の異なる株式のことです。 

例えば、 

  • 配当優先(劣後)種類株式 
  • 譲渡制限株式  
  • 議決権制限株式(無議決権株式)  

といった株式を発行することができます。 

自社株の相続対策として有効とされているのは、議決権制限株式(無議決権株式) です。 

具体的には、後継者には、議決権を行使できる通常の株式を相続させる一方で、後継者以外の相続人には、議決権制限株式(無議決権株式)を相続させます。 

後継者は、他の相続人から経営に関して口出しされることなく、経営に専念することができるようになります。 

もっとも、議決権制限株式(無議決権株式) の株主でも、株主総会で議決権を行使できないだけで、株主代表訴訟を提起することは可能です。他の相続人から、後継者が会社に損害を与えているといった主張がなされて訴えを提起されてしまうリスクが残る点には注意が必要です。 

自社株の相続対策2 他の相続人の遺留分問題への対策 

他の相続人の遺留分を侵害してしまう問題への対応としては、 

  • 遺留分に関する民法の特例の活用 
  • 生命保険の活用 
  • 10年以上前に生前贈与を行っておく 

といった対策が有効です。それぞれ解説します。 

遺留分に関する民法の特例の活用 

被相続人の遺産の大半が自社株の場合でも、遺言書で後継者である相続人のみに自社株をすべて相続させる旨を書くこともできます。 

この場合、相続発生時には、他の相続人から遺留分侵害額請求がなされてしまう可能性があります。 

これを防ぐためには、後継者以外の相続人に遺留分をあらかじめ放棄してもらうことも考えられます。 

ただ、被相続人の生前に遺留分を放棄するには、相続人自身が家庭裁判所に申し立てなければなりません。 

家庭裁判所が遺留分放棄の許可を出すにあたっては、 

  • 相続人が誰かから強要されて申立てをしていないかどうか 
  • 遺留分放棄に合理的な理由と必要性があるか 
  • 遺留分放棄の見返りとして代償財産を得ているかどうか 

などを審査します。 

特に、代償財産の有無は重要なので、被相続人が他に譲渡すべき財産を有していない場合は難しくなります。 

このように民法に規定されている原則的な遺留分放棄の制度は利用しづらいのが実情です。 

そこで利用を検討すべきなのが、事情承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例です。 

具体的には、後継者を含めた先代経営者の相続人全員の合意の下で、後継者に贈与された自社株等の事業用資産について、 

  • 遺留分を算定するための財産の価額から除外する(除外合意)。 
  • 遺留分を算定するための財産の価額に算入する価額を合意時の時価に固定する(固定合意)。 

このいずれかを行うことができるという特例です。 

この特例を利用するためには、事業承継の対象となる企業が非上場の中小企業である等の一定の要件を満たした上で、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を受ける必要があります。 

生命保険の活用 

あえて、後継者に遺産の大半を占める自社株を相続させたうえで、遺留分侵害額請求に備えさせる方法も考えられます。 

後継者が遺留分侵害額請求を受けた際に支払いに当てる現金は、先代経営者(被相続人)の生命保険金を活用する方法が考えられます。 

生命保険金の受取人を後継者に指定しておけば、その生命保険金は、後継者の固有の財産となり、遺産には含まれません。遺留分侵害額請求を受けた場合は、支払資金に充てることができるわけです。 

10年以上前に生前贈与を行っておく 

遺留分侵害額を計算する際は、遺留分を算定するための財産の価額を確定します。この財産には、相続時の遺産だけでなく、生前贈与された分も含みます。 

ただ、すべての生前贈与が対象となるわけではなく、 

  • 相続人以外への贈与は相続開始前の1年間になされた分 
  • 相続人に対する贈与は相続開始前の10年間になされた分 

のみです。 

そこで、先代経営者から後継者への自社株の生前贈与を亡くなる10年以上前に済ませておくことで、自社株の生前贈与について遺留分侵害額請求の対象から外すことが可能です。 

つまり、先代経営者が元気なうちに、後継者の経営権を譲ってしまうことが、会社の経営の行く末を見守る意味でも、自社株の承継対策としても有効ということになります。 

自社株の相続対策3 相続税納税資金問題への対策  

相続税納税資金が足りない問題への対応としては、 

  • 自社株の評価を下げる 
  • 事業承継税制を利用する 
  • 金庫株により会社から相続税納税資金を調達する 
  • 後継者を経営者の生命保険金の受取人とする 

といった対策が有効です。それぞれ解説します。 

自社株の評価を下げる 

後継者が自社株を相続した場合の相続税は、自社株の評価額に応じて課税されます。 

非上場株式の場合は、「類似業種比準価額方式」、「純資産価額方式」、両者の併用の中からいずれかが選択されますが、どの方式を選択するにしても、「純資産価額」の多寡が自社株の相続税評価額を左右することになります。 

そこで、あえて純資産価額を減らすことにより、相続税評価額を下げることが行われる場合があります。 

その手段は大きく分けると、赤字を作る方法と含み損を作る方法があります。 

赤字を作る方法としては、 

  • 先代経営者への退職金支給 
  • 含み損のある資産や遊休資産の売却 

が挙げられます。 

先代経営者への退職金支給により、支給した額だけ、会社の純資産を減少させることができます。 

また、含み損のある資産とは、取得した時の価格が現在の時価よりも高い状態にある資産のことです。例えば、会社が不動産を購入した後でその不動産の価額が下落した場合です。こうした資産を売却することにより、含み損の分だけ、会社の純資産が減少します。 

含み損を作る方法としては、金融機関から借り入れを行い、大規模な設備投資を行ったり、不動産を購入する方法が挙げられます。 

借入金は額面で評価されますが、土地や建物などの相続税評価額は購入額よりも低くなるのが一般的なので、その差額分だけ、会社の純資産を減らすことができます。 

もっとも、こうした手法はあえて会社の財政状況を悪化させる手段になるため、会社の経営に影響を及ぼすほどの赤字や含み損を作るべきではないことは言うまでもありません。 

また、あからさまな相続税対策は、税務署から否認される可能性があります。 

必ず、専門家のアドバイスを受けながら、適度な対策を行うべきです。 

事業承継税制を利用する 

事業承継税制は、事業承継に際して、相続税が発生してしまうために、事業承継自体をあきらめてしまうことがないように、特例措置を設けたものです。主に、中小企業が利用することが想定されています。 

事業承継税制は法人と個人向けの制度が用意されていますが、法人向けは、一般措置と特例措置の2つの制度が用意されています。 

一般措置は、中小企業等で経営者から後継者に⾮上場株式の贈与や相続があった場合は、贈与税や相続税の納税額が軽減される措置です。 

具体的には、後継者が支払うべき贈与税額のうち、議決権株式等(発⾏済議決権株式等の3分の2が限度)に対応する贈与税が100%納税猶予されます。また、相続の場合も同様の措置として、相続税の80%が納税猶予されます。 

納税猶予された分は、後継者がその次の後継者へ株式等を贈与する等の免除事由が生じることで支払いを免れます。 

特例措置は一般措置の措置を拡張したもので、20271231日までの期間限定で適用されます。 

特例措置では対象株式数の上限が撤廃されています。また、贈与税と相続税がともに100%納税猶予されることになっており、経営者から後継者に⾮上場株式の贈与や相続に伴う贈与税・相続税の負担を実質ゼロにすることができます。 

一般措置と特例措置のどちらを利用するにしても、事前の手続きが必要です。 

一般措置と特例措置の共通の手続きとしては、都道府県知事からの認定を受けることが挙げられます。 

また、特例措置では、2026331⽇までに特例承継計画を作成して、都道府県庁に提出して確認を受ける必要があります。 

その際、商⼯会や商⼯会議所などの認定経営⾰新等⽀援機関による指導及び助⾔を受けていなければなりません。 

特例措置の利用の場合は、事前の手続きがたくさんありますが、贈与税・相続税の負担を実質ゼロにできる制度なので、自社株の相続対策を検討している方は、見落とすことのできない制度と言えます。 

金庫株により会社から相続税納税資金を調達する 

 後継者が相続税の納税に使える現金や金融資産を保有していない場合もあります。非上場の中小企業では、経営者の遺産の大半が自社株式だけというケースも珍しくないため、現金を調達するには、その株式を売却するしかないこともあります。 

ところが、非上場の株式は売却先が限られています。そんな中で有力な売却先になるのが自社です。 

具体的には、後継者が相続した自社株を会社に買い取らせることで、会社から現金を調達する方法です。これにより会社が買い取った株式は金庫株になります。 

 また、金庫株は、後継者以外の相続人から株式を買い取る際にも活用できます。会社から資金が流出する形になりますが、金庫株となった場合は、議決権が行使されないため、後継者の議決権を高めることにも繋がります。 

 後継者を経営者の生命保険金の受取人とする 

 他の相続人からの遺留分侵害額請求を受けた場合を想定して、経営者の生命保険金の受取人を後継者に指定しておく方法も有効と紹介しましたが、相続税納税資金を確保するための手段としても有効です。 

また、受取人は後継者だけでなく、自社を指定することもできます。 

この場合、後継者は相続した自社株式を会社に買い取らせて金庫株とする形により、現金を調達することになります。 

自社株の相続対策4 事業承継資金の確保 

株式を後継者に集約する等の事業承継対策を行うにしても資金が必要になります。その資金をどのように調達すべきか悩む経営者も少なくありません。新たに金融機関から借り入れを行うことが難しい場合は、経営承継円滑化法に基づく、融資と信用保証の特例の利用も検討しましょう。 

都道府県知事の認定を受けることにより、日本政策金融公庫又は沖縄振興開発金融公庫から事業承継に必要な資金の融資を受けられるようになりますし、金融機関から資金を借り入れる際に信用保証協会の通常の保証枠とは別枠の信用保証を利用することが可能になります。 

融資を受けられるのは次の2種類の資金です。  

経営を承継した後に必要となる資金  これから他の中小企業者の経営を承継するにあたり必要となる資金 
  • 後継者が自社株や事業用資産を買い取るための資金 
  • 後継者が相続や贈与によって自社株や事業用資産を取得した場合の相続税・贈与税の納税資金 

 

  • これからM&Aにより他社の株式や事業用資産を買い取るための資金 

 

融資により調達した資金は、事業承継に伴い相続税や贈与税を納税するための原資として活用できますし、株式の集約を進めたり、後継者が自社株や事業用資産を買い取るための原資としても使えます。 

自社株の相続対策5 事業承継時の経営者保証解除 

現経営者が相続人の一人を後継者にと望んでいても、後継者が事業承継を拒否することもあります。 

その大きな理由の一つとして、多くの中小企業で経営者には、経営者保証が求められることが挙げられます。 

現在、政府は、事業承継に合わせて、経営者保証を解除できるようにする取り組みを進めています。 

金融機関に対してできる限り、経営者保証を求めないように促す一方で、中小企業に対しても、経理の透明性確保や財務内容の改善等の取り組みを進めるように求めています。 

経営者保証を不要とする新たな信用保証制度(事業承継特別保証制度)とは 

一定の要件を満たす中小企業なら、経営者保証なしで事業承継が可能になる制度です。 

具体的な要件は次のとおりです。 

  • 3年以内に代表者交代等の事業承継を予定する「事業承継計画」を作成していること。 
  • 資産超過であること。 
  • 返済緩和中ではないこと。 
  • EBITDA有利子負債倍率((借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費))10倍以内であること。 
  • 法人と経営者の分離がなされていること。 

ハードルが高いと感じる企業も少なくないと思いますが、事業承継を目標にこの要件を満たせるように専門家の力を借りながら財務体質の改善を図ることは、企業の業績のためにも後継者のためにもなることです。 

まとめ 

事業承継のための自社株の相続手続きは、経営者が保有する株式を後継者に承継させるだけですが、その過程では様々な考慮事項が発生します。 

後継者の経営権確保対策、他の相続人からの遺留分侵害額請求への対応、生前贈与時の贈与税、相続時の相続税の問題など、専門的な知識や経験がないと対処が難しいことが多いです。 

自社株の相続に関して、お悩みの方は、早めに弁護士等の専門家に相談し、対策を講じておくことが大切です。